腎機能を上手にコントロールしたがん治療を

監修●松浦友一 国立がん研究センター中央病院総合内科(腎臓内科)医長
取材・文●中田光孝
発行:2013年12月
更新:2019年7月

CKDがん患者さんは術後の透析が前提

腎疾患あるいは透析患者さんでのがん化学療法はいまだに確立しておらず、治療にあたっては臨床試験や症例報告を参考にしているのが現状だ。

また、透析導入前のCKD患者さんの外科手術は、術後の透析が可能であることが前提になる。一方、すでに慢性透析中の患者さんでは、高リスクであることは間違いないが、透析技術の進歩により以前よりも手術を行うケースが増えている。

しかしながら、どの程度の侵襲の手術までが安全に行えるのか、確立してはいない。

腎疾患や透析を合併した患者さんでの外科手術では、水分貯留や電解質バランスの管理が難しく、酸塩基平衡の異常、貧血、血小板機能低下、易出血、薬物代謝異常などを起こしやすい。大きなハンディを背負っていることは事実である。

「対策としては、透析患者さんでは事前に可能な範囲で水を除去して体全体のむくみを解消し、血液中のカリウムが高い場合はカリウムを下げる薬を投与したり、場合によっては絶食とします。貧血があれば輸血し、低タンパクがあればタンパク製剤を輸注するといった工夫をして、極力その人のベスト・コンディションにした上で手術に望むことが大切です」

同院では昨年(2012年)秋に慢性透析用装置1台を導入したという。

「侵襲が少なく1~3週間の入院で行える治療、たとえば胃カメラや大腸鏡により早期の腫瘍を取る手術、プローブという針のような器具を腫瘍に挿入し凍結壊死させる腎がん凍結療法などが実施可能になりました。また、がん治療中に慢性腎不全状態になった患者さんについても、一時的に透析を行っています」

易出血=わずかな刺激で出血すること

低腎機能では抗がん薬投与法は未確立

腎疾患合併あるいは透析中のがん患者さんに対する抗がん薬投与では、蓄尿クレアチニン・クリアランスにより腎機能を判定し、それに基づいた治療が行われる。

「腎機能が悪い患者さんに対しては、各種の報告を参考にして治療にあたりますが、ほとんどの抗がん薬で投与法が確立しているとは言い難い状況です。投与薬剤の代謝過程で作られる副産物による腎障害の発生、腎不全による薬剤のタンパク結合率の変化、透析による薬物除去の個人差などの不確定要素が多いため、予期せぬ重篤な副作用が発生するリスクがあるのです。

腎疾患や透析を合併した患者さんへの抗がん薬投与では、そういった理由から、少量から投与を開始し、副��用が出なければ徐々に増量していくというドーズ・エスカレーション(段階的増量)法が採用されることもあります。ただしこの方法では、薬剤の効果が見られなかった場合に、投与量が少な過ぎたことが原因だったのか、抗がん薬自体が効かなかったのかわかりにくいという欠点があります」

タンパク結合率=血液中の抗がん薬は、タンパクに結合したものと薬剤単独で存在するもの(フリー)があり、結合のしやすさは薬剤により異なる。またフリーのほうが腫瘍に移行しやすい

抗がん薬治療中の注意点

CKD患者さんの腎機能は、年々悪化する道をたどるのが一般的ではあるが(図4)、血圧をはじめとする管理をしっかりすることで、悪化のスピードを遅らせることは可能である。

図4 慢性腎臓病(CKD)は進行性

糸球体過剰濾過仮説:CKD(慢性腎臓病)は進行性である(1981年 Brenner)

松浦さんは日常診療で以下の点に注意するように、患者さんとその家族に説明しているという。

患者さんは体調が悪くなると自分の状態を客観的に見られなくなることがあるので、家族にオブザーバー(観察)的な役割を果たしてもらうことも重要だと考えている。

❶脱水:食欲低下、嘔吐、下痢による

がん自体によるものと抗がん薬によるものがある。

こういう状態のときに、患者さんは自分が「脱水になっていること」を認識できないことが意外と多いものである。

❷不用意な投薬:とくに解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンを除く)に注意

かかりつけでない開業医から処方されてしまうことが多く、風邪、腰痛などでも日常的に投薬される。

❸感染に気をつける

「対策として感染や脱水の状態におちいった際は、できるだけ早く近隣の医療機関を受診し、採血による腎機能チェック、脱水に対する補液などの適切な対応を受けるようにします。また病院や薬局で薬をもらう際は腎臓が悪いことを話し、場合によっては腎臓内科のかかりつけ医に相談するようアドバイスしています」

透析治療とがん治療

腎疾患合併あるいは透析患者さんでの抗がん薬治療、外科手術のいずれも、安全性が確立しているとは言い難い現状であり、今後さらに各施設での経験を蓄積し、広めていくことが重要とされている。

透析患者さんのがん発生率は一般人口よりも高いが、透析技術の進歩により慢性透析導入患者さんの60%以上が5年以上生存することから、透析患者さんのがん治療は十分に意義があると言われている。

松浦さんは「本院でも、将来透析スタッフが整備され、腎疾患・透析患者さんのがん治療にもっと自由度を持って対応が可能になるよう働きかけていきたい」と抱負を語っている。

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