データからみた がん患者における併存疾患の有病率

文●「がんサポート」編集部
発行:2015年12月
更新:2016年2月


がん種別の併発疾患有病率と生存率

次に、併存疾患の重症度(なし、軽度・中等度、重度)およびステージ別(担がん状態:限局性localized、局所性regional、遠隔distant)の死亡原因と5年生存率を年齢層別(66歳~74歳、75歳~84歳、85歳以上)に算出(分析)したグラフを順を追ってみていくと――。

乳がん(図2)

女性乳がんおいては、限局性ステージでは、がんによる死亡率はがん以外での死亡率よりも低く、年齢層別および併存疾患の重症度ともに5年生存率の予測因子となっていた。局所性ステージでは、併存疾患と年齢は5年生存率に関連していたが、遠隔ステージの女性では全年齢層および重症度において、診断後5年の時点でがんによる死亡率は69%以上であった。

■図2 1992-2005年間に乳がんと診断された女性におけるステージ、
併存疾患の重症度、年齢層別の死因(がん/他の原因)別死亡率および5年生存率

前立腺がん(図3)

前立腺がんでは、がんおよびがん以外での死亡率、ステージ別、年齢層別、併存疾患の重症度別の5年生存率は乳がん患者と同様であった。限局性ステージで診断された男性では、全年齢層、重症度において2~14%ががんにより死亡。局所性ステージのとくに75歳~84歳では重症度に伴って、がんおよびがん以外による死亡率が増大していた。遠隔ステージと診断された男性では、年齢、重症度にかかわらずがんによる死亡率が54%超と高かった。

■図3 1992-2005年間に前立腺がんと診断された男性におけるステージ、
併存疾患の重症度、年齢層別の死因(がん/他の原因)別死亡率および5年生存率

大腸(結腸直腸)がん(図4、5)

大腸(結腸直腸)がんの女性および男性では、限局性ステージで全年齢層および重症度において7~26%ががんで死亡。

これに対して局所性ステージでは、25~44%、遠隔ステージでは80%超ががんで死亡していた。限局性あるいは局所性ステージの大腸がんの男女では、5年生存率およびがん以外での死亡率は、重症度レベルと年齢に強い関連性があった。

■図4 1992-2005年間に大腸(結腸直腸)がんと診断された女性におけるステージ、
併存疾患の重症度、年齢層別の死因(がん/他の原因)別死亡率および5年生存率

■図5 1992-2005年間に大腸(結腸直腸)がんと診断された男性におけるステージ、
併存疾患の重症度、年齢層別の死因(がん/他の原因)別死亡率および5年生存率

肺がんおよび気管支がん(図6)

肺がんおよび気管支がんでは、女性(図省略)、男性ともに、がんおよびがん以外での死亡率に対する併存疾患の影響は他のがん種に比べて小さく、限局性ステージの患者においても予後不良であることが示唆された。

局所性および遠隔ステージの超高齢大腸がんおよび肺がん患者において、併存疾患が重度の症例では、重症度がより軽い症例よりもがんによる死亡率が低く、がんによる死亡リスクの減少において、併存疾患が果たす役割が示唆された。

■図6 1992-2005年間に肺がん/気管支がんと診断された男性におけるステージ、
併存疾患の重症度、年齢層別の死因(がん/他の原因)別死亡率および5年生存率

ステージにより併存疾患が生存率に及ぼす影響は異なる

全体的な動向として、併存疾患の有病率は、乳がん患者(32.2%)、前立腺がん患者(30.5%)では非がん患者(31.8%)とほぼ同じであり、有病率が最も高かったのが肺がん患者(52.9%)、中間に位置していたのが大腸がん患者(40.7%)であった。

全がん患者の中でも、とくに限局性、局所性ステージの患者では、年齢および併存疾患の重症度レベルががん以外の原因による死亡率に影響していた。

遠隔ステージの患者では、がんによる死亡率ががん以外の原因による死亡率よりも高く、年齢、併存疾患が生存率へ及ぼす影響は小さかった。

報告書の結論では、「本年次レポートは、肺がん、大腸がん、乳がん、前立腺がん患者における併存疾患の罹患が生存に影響を与えることをハイライトしたものである。がん患者のケアにおいて、併存疾患が重要である故に、併存疾患の計測を組み入れた予後および生存ツールは、臨床的な決定(治療法の選択)を行う上で有用である可能性が示唆される」としている。

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