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心疾患をしっかりケアしてがん治療 手術や化学療法を乗り越えるカギとなる
基本は経口薬で対応
基本は経口薬で対応する。抗がん薬で血圧が上がることもあるが、そのときに血圧を低下させるのも経口薬となる。
血圧などの治療については、志賀さんのところに主治医から相談がくることが多い。呼吸器内科、消化器内科などの内科系のがん診療科ならばそのような経験があるが、日常診療で血圧調節に携わることが少ない外科系の医師が助言を求めるという。
経口薬では対応できないこともある。
「狭心症の〝ひそみ〟です。狭心症の疑いが強いと連携病院で心臓カテーテル検査をしてから、狭窄していたり閉塞していたりする冠動脈を広げる治療をします。一般的に入院を要し、検査および治療で数日から数週間になることがあります」
抗がん薬治療に入った後に症状が悪くなったときの対処としては、心不全で急な循環器的治療が必要なときには、担当科に入院してがん診療を続けながら、循環器医のほうで心不全の治療を行い、患者管理をサポートする。利尿薬や強心薬でおよそよくなるという。
治療を継続するかは、個々の状況によるが、規定の抗がん薬の治療回数を一旦中断して、心臓を整えてから再開したり、予定していた抗がん薬の構成を変えて、心毒性の少ない抗がん薬に変更して治療を再開したりと方法はある。
心血管系毒性は どの薬剤から起きても不思議ではない
抗がん薬による心血管系の副作用について、詳しく見てみる(表1)。

心臓のポンプ機能を低下させる心筋障害を起こしやすい抗がん薬の代表は*アドリアシンなどのアンスラサイクリン系の薬剤と分子標的薬の*ハーセプチンだ。アンスラサイクリン系薬剤による心筋障害は蓄積毒性といわれ、無治療の心不全発症患者は3年生存率が約50%と予後不良とされる。リスク因子は、小児、高齢、女性、タキサン系薬剤などとの併用療法、高血圧、喫煙歴などだ。
ハーセプチンは、単独投与で約4~7%の心不全発症がみられるとされる。アンスラサイクリン系が不可逆性なのに対して、休薬すれば心機能は回復するのが特徴だが、アンスラサイクリン系や*タキソールとの併用で心不全発症は約10~20%に増加するとされている。
他の薬剤では、高血圧は血管新生阻害薬である*アバス��ンや*スーテントなどで発現しやすく、血栓の問題もある。*リツキサンでは不整脈が出やすい。*シスプラチンで脈が遅くなったりすることもある。
「抗がん薬はたくさんあります。そして、どれもが心臓や血管の障害を起こし得ます。とくに薬剤を併用している場合は原因がわかりにくいので、我々医療者としてはどの薬剤からどの症状が起こってもいいように構えていなければなりません」
*アドリアシン=一般名ドキソルビシン *ハーセプチン=一般名トラスツズマブ *タキソール=一般名パクリタキセル *アバスチン=一般名ベバシズマブ *スーテント=一般名スニチニブ *リツキサン=一般名リツキシマブ *シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ
心疾患になりにくい体質作りを 生活習慣病も影響してくる
「喫煙、糖尿、コレステロール、中性脂肪、腎臓が弱い、といったことがあると動脈硬化から狭心症になりやすいと言えます。これらの状態が日ごろから育まれてきてしまっていると、がん治療時によりトラブルになる可能性があります。
余力が少なくなっているからです。がんと生活習慣病の悪い相加相乗効果があるのかもしれません。がん自身が動脈の弱さ、心臓の弱さを発生させるので、がんは心疾患のリスクになります。心臓病になりにくい体質にしていくことが大切です」
Onco-Cardiology 新しい医師連携のあり方
志賀さんは医師仲間たちとともに、がん治療と心血管系障害に関する体系的な連携体制を取るべく学会や医療現場で活動している。それがOnco-Cardiology(腫瘍-心臓病学)という分野だ。欧米でも進んでいるものの、まだ新しい取り組みだという。
「がんの専門医は循環器のことをよく知らずに、循環器の医師はがん診療を知らない。『がん診療と循環器診療を一緒に考えよう、大事な分野だと再認識しよう』ということです」
今年(2015年)10月の日本心不全学会では初めて循環器系の医師を対象にがんのセッションを設けられた。
「循環器医も大いに関わり、がん診療をサポートし推進していこうという立場。がんに併発する循環器疾患の治療戦略や管理の仕方、さらに治療体系の仕組みを作っていきたい」。これから知識の普及を図り、治療成果につなげていく考えだ。