長引く咳は慢性閉塞性肺疾患(COPD)を疑うことが重要

監修●滝口裕一 千葉大学大学院医学研究院先端化学療法学/医学部付属病院臨床腫瘍部教授
取材・文●半沢裕子
発行:2015年12月
更新:2016年2月


吸入ステロイドで炎症を抑制し 気管支拡張薬で息切れ防止

COPDの薬物療法は、息切れを抑え、運動能力を高めることを目的に行われる。使われる薬は大きく分けて4種類。❶COPDの炎症を抑えるステロイド薬。副作用を抑えるため、吸入の形で使う。❷治療の基本になる気管支拡張薬。気管支を拡げ、空気の通りをよくするので、息切れの症状を改善することができる。息切れの強い患者には長時間の効果が望める吸入薬が処方される。❸咳や痰を鎮める咳止めや去痰薬など。そして、❹細菌感染を伴う場合には抗菌薬が必要だ。

「感染はできるだけ予防することが非常に重要」と滝口さんは説明する。

「COPDでは気道感染や肺感染を起こしやすくなり、重症になると命に関わります。がんの患者さんの場合、さらに抗がん薬などによっても感染を起こしやすくなるので、より注意が必要です」

そのために、手洗い、うがいをする、人ごみを避ける、睡眠を十分とるなどの生活習慣を守るだけでなく、インフルエンザの予防接種や肺炎球菌ワクチンの接種も積極的に受けて欲しいという。

薬物療法と併用して行うのは、心肺機能に負担をかけない程度の、主に下半身の筋肉を使うこと。ストレッチや散歩などがお勧めだ。そして、これらの治療をすべて行っても低酸素状態が続くときは、酸素療法を行うことになる。酸素療法とは自宅に酸素濃縮器を設置し、必要に応じて、または24時間吸入する方法。チューブをボンベにつけ替えれば、ボンベを携帯して外出することもできる。息切れの症状が楽になるだけでなく、外出や旅行が可能になることから、精神状態も大きく改善される可能性が高い。

COPDとがんが併存している場合、知っておきたいのは「がんの症状と思っていたら、COPDの症状だった」ということが少なくない点だ。

「がんとCOPDが併存しているとどうしてもがんに目が行きますが、COPDの治療をしたら息切れの症状が改善したということが結構あります」

COPDの症状そのものが、がんの進行に伴って出てくることもある。

「早期のうちはCOPDに気づかないこともありますが、抗がん薬で体力が低下し、その副作用やむくみ、胸水などの問題が出ると、病気が顕在化してくることがあります」

がんの治療と併せてCOPDの症状にも注意し、治療を進めることが必要だ。

リハビリは呼吸の改善よりも筋肉維持が重要

COPDの改善に��、リハビリテーション(以下リハビリ)と生活習慣の改善も重要になる。呼吸器のリハビリには、文字通り「呼吸リハビリ」という方法がある。

主に、運動と呼吸を連携させたもので、例えば、「歩くときに自分のペースに合わせ、1、2で息を吸い、3、4、5で吐く」、「肩の上下運動をしながら息を吸い、吐く」といったものだ。

「残念ながら、呼吸訓練そのものではあまり成果が出ていないのが現状ですが、がんの術前術後、またCOPDにも適切な運動を行うことは非常に重要と考えています。COPDにおいては、下肢の筋肉量を増やすことでリハビリ効果があるというエビデンス(科学的根拠)があります。事実、たとえ肺が悪くても、筋肉がしっかりしていれば、それだけ肺や心臓にかかる負担が軽くなります。そして、それはCOPDの治療のためだけでなく、がんの患者さんにおいてQOL(生活の質)を維持するためにも重要だと考えています」

適度な運動をして筋肉量を維持すると、心肺への負担が減る。下肢という大きな筋肉を維持することは、心肺状態の改善に大いに役立つ。故に、歩ける人は歩き、歩けない人もストレッチなどを行うことで、少しでも筋肉量を維持するように努めることが勧められる。

症状の軽い時期には患者自身も気づきにくいCOPDだが、できるだけ早期に発見し、治療を開始することが望ましいと言える。

COPDの診断は数値だけでなく 総合的に判断することが大切

COPDの診断や病期の確定は今日、COPD診療ガイドラインを基に行われる。それによれば、「気管支拡張薬投与後のスパイロメトリー(呼吸器検査)で、1秒率が70%未満であること」などが判断基準となる。「COPDは気管支拡張薬を使い、可逆性がないことを証明する必要がある」(滝口さん)からだ。しかも、「ほかの気道障害を来している疾患を除外する」という条件がついている。肺がんや喘息があったらCOPDと診断できないことになってしまうのだ。では、どうやって診断をつけるのだろう。

「数値は同じでも、人により出てくる症状や強度は違います。ですから、数値はあくまで参考にし、医師が呼吸器検査を行い、患者さんの様々な条件を考慮して総合的に診断することになります」

診断がつくかどうか不安なときは、呼吸器にくわしい医師に相談するのも1つの方法だ。

1秒率(FEV1%)=最初の1秒間で吐き出せる息の量(1秒量)を努力肺活量(スパイロメトリーで思い切り吐き出す肺活量)で割った値

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