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定期的なスクリーニングが重要 透析患者の腎がん治療
全摘が1番の治療法
透析腎がんの治療は一般の腎がんの治療と基本的に同じとなる。
「腎がんは、抗がん薬も放射線も効きにくいがんなので、手術で切除する方法が1番の治療法になります。手術の場合、腎臓全体を摘出する根治的腎摘除術が標準的治療であり、最近では腹腔鏡手術が積極的に行われています」
こう語る中澤さんによると、治療成績は一般の腎がんと比べると比較的良いという。
「というのは、透析患者さんは基本的に週に3回、透析のために病院に通っているし、日本の場合はとくに透析患者さんの腎がんが多いことがわかっているので、年に1回とか半年に1回、CTなどで定期的にスクリーニング検査を行っていて、早期に見つかる人が多いからです。早期に見つけて早期に治療すれば治療成績も良くなります」
透析腎がんの場合、嚢胞にがんが多発するといっても腫瘍径が小さいものが多く、悪性度も比較的低いという。透析腎がんの患者と非透析腎がんの患者とで治療成績を比べると、一般にがん特異的生存率は透析腎がん患者のほうが高く、がん自体で死亡するよりも、それ以外の疾患が原因で死亡する割合のほうが高いという。
「透析患者さんの死因として、がんも増えてはいますが10%程度です。がんではなく、感染症や心血管障害でお亡くなりになられる方が多く、腎がん患者さんの全生存期間(OS)で見ると、透析をしていても、していなくてもあまり変わりません」
一方、非透析患者の場合、腎機能の温存のため部分切除を考慮したりするが、すでに腎不全になっていて透析に頼っている患者にとっては、腎臓全体の摘出が1番の治療法ということになる。両方の腎臓を取ってしまってもそれほど問題はない。
「ただし、腎臓は尿を作るだけではなくホルモンも産生しています。とくに重要なのはエリスロポエチン(EPO)という造血ホルモンで、両方の腎臓を取るとエリスロポエチンが作られなくなってしまいます。ただ、最近ではエリスロポエチン製剤がいくつか開発されているので、両方の腎臓を取ってもそれほど問題にはならなくなっています」
他にも、手術自体は透析腎がんと非透析腎がんとで変わらないが、透析腎がんの場合、血管がもろくなっているなど様々な合併症のリスクを伴うので、術後の管理には気をつける必要があるという。
転移性がんの薬物療法の有効性は?
透析腎がんの治療成績が良好なのは手術によってがんを取り切れるからで、転移があると治療は難しくなる。
「転移性腎がんに対しては、インターフェロン(IFN)���インターロイキン-2(IL-2)などを用いたサイトカイン療法と、分子標的薬による薬物療法が行われますが、現在主流となっているのは血管新生阻害作用を持つ分子標的薬による治療です。
この治療は、がんの増殖や血管の増殖に関わる因子を抑えることで抗腫瘍効果を発揮します。透析腎がんの場合、血流の多い典型的な淡明細胞がんではない、異なるタイプのがんが多く、転移性腎がんで使われている血管新生を阻害する分子標的薬は効きにくいと考えられています」
現時点では、透析腎がんに対するサイトカイン療法や分子標的薬治療の有効性は、症例報告レベルでしかなく、大規模な臨床試験で証明されていないという。
また、透析腎がん患者に薬剤を使用する際には副作用にも十分注意する必要がある。腎がんで使われる薬剤は、基本的に腎排泄性ではないと言われるが、通常量を使用すると、血管内皮増殖因子(VEGF)を阻害する働きがあるため血管障害を起こす可能性がある。透析患者は動脈硬化が進行している人が多いので、出血傾向が出るなどの副作用が発現しやすくなるという。
腎がん治療の薬物療法で、今後期待されているものとしては免疫チェックポイント阻害薬(PD-1阻害薬)*オプジーボがある。進行・転移性腎がんに対する日本も含めた国際共同試験でその有効性が明らかとなっており、国内申請への動きが注目されている。
「PD-1阻害薬はこれまでの分子標的薬と作用機序が全く異なるので有望です。ただし、これは通常の腎がん患者さんで臨床試験が行われている段階で、免疫力が低下している透析腎がん患者さんに効果があるのか、慎重に検討する必要があるでしょう」
*オプジーボ=一般名ニボルマブ
1年か半年ごとのスクリーニングが大事
日本では数が少ないが、もう1つの治療法として腎移植があるが、とくに早期のがんであれば、腎移植も大きな問題はない。
「一般に透析腎がんの予後は良好と言われていますが、それは手術で切除ができるからで、遠隔転移があると予後は非常に不良となります」
透析を長く続けるほど、がんになる可能性は高くなる。しかし、だからといって透析を止めるわけにもいかない。透析患者にとって、がんになるリスクは避けられないのだから、もしがんになったとしても、早期のうちに発見することが何より重要ということになる。
中澤さんも「透析患者さんのがんはゆっくり進むタイプが多い。半年に1回のスクリーニングで十分ですから、早期に見つけて手術をしていただきたい。とくに通常の腎がんでは例えがんの大きさが4~5㎝になっても無症状の場合が多いですが、透析患者さんの腎がんの場合、がんが小さいうちから尿道からの出血など症状が現れることが多いので、そういったサインを見逃さずに、早期に発見して適切な治療を受けてもらうことが重要です」と話している。