心臓ホルモン投与で肺がんの転移・再発を防ぐ 肺がん再発予防の臨床研究・全国10施設で「JANP Study」実施

監修●似鳥純一 東京大学医学部附属病院呼吸器外科助教
取材・文●町口 充
発行:2016年8月
更新:2020年8月


500人対象に「JANP Study」

こうした研究成果をもとに、がんの転移を防ぐANPの効果を確かめようと、国立循環器病センターが主導して昨年(2015年)9月から「JANP Study」という大規模な多施設共同無作為化比較試験が始まった。

試験に参加しているのは東京大学の他、北海道大学、山形大学、山形県立中央病院、国立がん研究センター東病院、大阪大学、大阪府立成人病センター、大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター、国立病院機構刀根山病院、神戸大学の10施設(図3)。対象とするのは非小細胞肺がんのⅣ(IV)期以外で完全切除を予定している患者500人で、試験の登録期間は2017年3月31日まで、現在、希望者を受け付けている(図4)。


ANPは手術開始2時間以上前から3日目まで連続して点滴投与する。その後の治療は手術のみの人と同じで、いずれの群でも入院期間は基本的には1週間ほどとなる。

気になる合併症だが、ANP投与で予測されるものは、血圧の低下や電解質異常など。不整脈が出る人も稀にいるという。

「血圧低下の原因は利尿作用によるものです。通常量を使った場合、8.6%の人に血圧低下の症状が表われますが、今回の臨床研究では通常量の4分の1から8分の1程度の低用量なので、あまり心配はいりません。ANP投与後、15分毎に血圧を測定し、もし80mmHgを下回った場合には、500mLの輸液を投与します。輸液を2本投与しても血圧低下が改善されなければANPの量を半減するなどして対応します」

通常量の使用でも重篤な副作用が出ることは稀であり、東大病院でも今のところ、重篤例は1人も出ていないという。

他のがんの転移を防ぐ可能性も

「臨床試験で効果が実証されれば、肺がんだけでなく、乳がん、肝がんなど他の臓器のがんでもANPが転移予防のために使われるようになるかもしれません」と似鳥さん。もしがんの転移を未然に防ぐことが証明されれば、がんで亡くなるのを防ぐことにもつながり、画期的と言えよう。

なお、この「JANP Study」はは昨年6月、厚生労働省より「先進医療B」に選定されている。また、気になる費用だが、患者負担分は先進医療にかかる費用として、東大病院では3,398円となっており、その他として、通常通り診察・手術・入院などの費用が保険診療としてかかることになる。もしこの臨床研究を受��たい場合には、主治医に紹介状を書いてもらうか、臨床研究を実施している各施設に問い合わせてみるとよいだろう。

世界に先駆けての「がんの転移を未然に防ぐ薬」の開発。大きな期待を持って、結果が出るのを待ちたい。

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