性の多様化によって中咽頭がんが急増中 HPVが原因の中咽頭がんに気をつけよう!
さまざま低侵襲治療の臨床試験中
HPV関連の中咽頭がんは、予後が良好のがんであることから、治療についても、手術の低侵襲化や薬物療法、放射線療法の照射量を少なく行なっても、治療成績の良好さを保てるかどうかなどについて検証する、さまざまな臨床試験が現在進行中だ。
現在、中咽頭がんに対する標準治療は、シスプラチンと放射線療法を併用する化学放射線療法だ。しかし、合併症として嚥下(えんげ)障害が起こり、その延長線上では誤嚥性肺炎が起こり、場合によっては、死亡に至るということが問題視されてきた。
そこで、化学放射線療法を行う代わりに、内視鏡によって口腔内からアプローチする経口的手術と頸部郭清術という低侵襲手術を行い、摘出標本を病理学的に評価して、その結果に応じて、術後治療の強度を弱めるという「ECOG3311試験」や、化学療法と放射線療法の感受性が良いHPV関連の中咽頭がん例に対して、経口手術を行なっても治療成績に遜色はないかどうかを調べる、手術と化学放射線療法を比較する「ORATOR試験」、そして、化学放射線療法において、導入化学療法後の放射線照射の線量を軽減する「ECOG1308試験」や、「Quaterback試験」などが行われている。
「ECOG1308試験」は第Ⅱ相試験だが、結果が出ている。タキソール(一般名パクリタキセル)+シスプラチン+アービタックス(同セツキシマブ)の導入化学療法を3コース行なった後、完全奏効(CR)した症例には、IMRT(強度変調放射線療法)54Gy(グレイ)照射とアービタックス投与を行い、完全奏効に満たない症例にはIMRTを69.3Gy照射とアービタックス投与を行なった。
完全奏効群の2年無増悪生存率は80%で、嚥下機能も有意に良好で、栄養状態も低下しなかった。
「Quaterback試験」は、365例が参加した第Ⅲ相試験である。タキソテール(一般名ドセタキセル)+シスプラチン+5-FU(同フルオロウラシル)の導入化学療法を3コース行なった後、奏効例に対してパラプラチン(一般名カルボプラチン)併用のIMRTを70Gyあるいは56Gy照射を無作為に投与し比較した。結果、導入化学療法奏効例に対するIMRT照射量の減量は可能で、生存率は維持され副作用軽減につながることが示された。
このように、さまざま低侵襲治療、治療の強さを弱められるかの臨床試験が行われている。近い将来これらの結果で、HPV関連の中咽頭がんの治療法が確立されそうだ。
「現在、T1、T2の早期がんについては、標準治療である化学放射線療法とロボット(ダヴィンチ)手術が同等の成績であるという���後向き臨床試験の結果が出ています。12カ月後の比較では、ロボット手術のほうが嚥下機能をより温存できるということもわかりました。この結果により、米国ではHPV関連のT1、T2中咽頭がんの8割以上に対してロボット手術が実施されています。
わが国は、まだロボット手術が保険適用になっていないため、経口内視鏡手術が実施されていますが、臨床試験的な治療としてロボット手術を実施している施設もあります。これらの手術成績は全例、日本頭頸部外科学会に登録されますので、その結果いかんでは、近い将来的、わが国でもロボット手術を保険で行えるようになると考えています」
HPV関連の中咽頭がんの治療の選択肢は確実に増え、低侵襲な治療で良好な予後を期待できるようになりそうだ(画像4)。

HPVワクチン接種による1次予防を
今後は治療法と共に、予防が重要になってくるだろう。HPV感染を遮断できれば発症は間違いなく減少することが予想されるからだ。そのためには、女性の予防が重要になってくる。
「現在、日本では子宮頸がんワクチンの接種がほとんど止まっていますので、1次予防についてはなんとも言えないのですが、HPV感染を予防することは大切ですし、2次予防の検診受診はとても大切です」と山下さん。
「しかし、中咽頭がんへの検診による2次予防方法は、現在はありません。中咽頭は子宮と違って、検診で組織をこすり取る検査を行なっても、その範囲が、両側口蓋扁桃から舌根扁桃と広すぎて、しかも陰窩という深いところに感染が潜行するため、偽陰性が多く出てしまう可能性が高く、検診には有効性がないと考えられています。また、子宮頸がんと違って、病理学的に前がん病変の病態もわかっていません。したがって、検診による2次予防の可能性は難しいのです。
中咽頭がんも、1次予防であるワクチン接種が、日本でどうなるかということもありますが、接種ができれば、HPV感染を減らすことは確実にできるでしょう。ただし、それによって中咽頭がんを抑制することができるかどうかは、きちんと検証して、明確なエビデンス(科学的根拠)を得るまでは、はっきりしたことは言えません。
いずれにしても、HPV感染により病気を発症する可能性は、女性に限ったことではないということを男性にもしっかり認識していただきたいと思います」
将来的には、予防と治療、その両輪が進展することによって、HPVが原因の中咽頭がんが減少することを期待したい。
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