前がん病変の白板症に注意を! 自分で気づくことができる舌がんは早期発見を

監修●朝蔭孝宏 東京医科歯科大学頭頸部外科学講座教授
取材・文●伊波達也
発行:2019年10月
更新:2019年10月


III期、IV期の進行がんでも手術が第1選択

■画像3 再建した舌の写真

舌がんでは、III期、IV期の進行がんであっても、治療は手術が第1選択となっている。

「咽頭(いんとう)がんなど、他の頭頸部がんでは、化学放射線療法を積極的に行いますが、舌がんに関しては、その有効性は認められていません。

手術では舌の半分を切除、あるいは亜全摘(あぜんてき)を行った後に、臍(へそ)の脇や太腿の筋肉を移植する再建手術を行います。平均で約8時間に及ぶ大手術です(画像3)。

術後の病理検査で、切除断端(せつじょだんたん)にがんが残存している場合、リンパ節転移が被膜を破って周囲に浸潤している場合には、シスプラチン(商品名ブリプラチン/ランダと放射線療法を組み合わせる、術後化学放射線療法が行われるのが標準治療です」

手術が不能である、再発・転移症例についての治療の第1選択は、抗がん薬のシスプラチンと5-FU(一般名フルオロウラシル)と分子標的薬のアービタックス(同セツキシマブ)を組み合わせた多剤併用による化学療法を行うのが標準的な治療だ。

第2選択では、現在、様々ながん種で脚光を浴びている免疫チェックポイント阻害薬であるオプジーボ(一般名ニボルマブ)が使われる。近々、同じ免疫チェックポイント阻害薬であるキイトルーダ(同ペムブロリズマブ)が第1選択薬として適応になる見込みである。

また、舌がんの場合は、食べる、しゃべるなど、日常のQOLに大きく影響するため、遠隔転移があっても救済的に手術を行うことがある。

舌がんの手術で十分留意しなければならない合併症は、嚥下(えんげ)障害による誤嚥性(ごえんせい)肺炎だ。

「とくにご高齢の方は、元々、嚥下機能が衰えていますので、手術によってさらに嚥下機能が低下することが考えられるので、十分な注意が必要です。場合によっては誤嚥防止の手術を行ったり、経口摂取を諦めて、胃瘻(いろう)にすることが必要となることもあります」

また、舌がんをはじめ頭頸部がんの場合は、多重がんについての留意も重要だ。

「頭頸部がんの場合、その10〜20%で食道がんも発見されます。臓器的につながっていますし、同じ扁平上皮(へんぺいじょうひ)であるためです。ですから、舌がんの場合でも、必ず全例に対して、喉(のど)から食道、胃まで��検査を行っています」

将来的には光免疫療法も可能性が

今後、頭頸部がんで注目を浴びている「光免疫療法」の導入も期待されている。

「光免疫療法は注目に値します。そのメリット・デメリットをよく検証しながら、将来的にはまず再発・転移の症例から適応になる可能性はあります」

「とにかく大切なことは、繰り返しになりますが、自分の病状と希望について、主治医とじっくり相談して、治療を検討することが大切なのです。『日本頭頸部外科学会』のホームページを参照していただき、ご自分の近所で頭頸部がん専門認定施設になっている病院を探して受診するのがいいと思います。セカンドオピニオンを取るのにも役立つでしょう」

頭頸部がんは発がんのメカニズム(発症機序)が複雑で、単一の遺伝子変異を標的にする治療は難しいと言われる多段階発がんだ。

しかし、遺伝子パネル検査も保険適用で行われるようになり、ゲノム医療がますます進展していくなかで、舌がんにおいても、今後の新たな治療法が出現してくることは、大いに期待できるだろう。治療の進化に期待しつつ、治療科の選択を間違えて遠回りしないで、自分にとって最適の治療を受けることを心掛けたい。

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