ひと穴から手術の全てを行う「単孔式内視鏡手術」に挑む理由

監修●金平永二 メディカルトピア草加病院院長
取材・文●祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2012年8月
更新:2019年8月

4カ所の穴が、1つに

通常の腹腔鏡手術は4カ所、穴をあけて行う。それでも操作が難しいのに、単孔式は2.5㎝の穴がたった1つ。この手術の難しさは、何といっても狭い穴を通して複数の器具を扱うことにある。

そうした制約から、金平さんが最初に単孔式手術の対象に選んだのは、胆石だった。金平さんによると「胆石は手技的にも内視鏡で取りやすく、患者さんも多いので技術が向上しやすい」のだそうだ。

腫瘍では、GISTが1番多い。GISTは、間質性腫瘍といわれ、胃粘膜から発生する胃がんとは性質が違う。進行すれば転移して死に至る病気だが、進行も遅く小さいうちにとれば完治しやすい。「リンパ節郭清もしなくていいので、単孔式の比較的良い適応になるのです」と、金平さんは話す。

その他、血小板減少症などに対する脾臓の摘出、大腸の腺腫や広範囲のリンパ節郭清の必要がない早期大腸がん、鼠径ヘルニアなどが今は主な適応になっている。すでに、リンパ節郭清を伴う進行がんの手術に単孔式を導入している病院もあるが、金平さんは技術的な進歩を見ながら、と慎重に考えている。

摘出する病変の大きさは腹腔鏡と同じく5㎝ くらいまで。GISTも5㎝までの腫瘍が適応になる。

器具にも工夫と改良が

摘出後はモニターを見ながら縫合していく

摘出後はモニターを見ながら縫合していく

単孔式での作業を円滑にするBJニードル。術者右手

単孔式での作業を円滑にするBJニードル。術者右手

用途に合わせ、さまざまな器具が使われる

用途に合わせ、さまざまな器具が使われる

単孔式手術をスムーズに行うために、金平さんは器具にも工夫や改良を重ねてきた。

単孔式には、2種類のアプローチ方法がある。1つは、金平さんも使っているマルチチャンネルポート。器具の出し入れがしやすいのが利点だが、従来のものは動きが悪かった。そこで、器具が互いに干渉せず、出し入れもしやすいように改良したのが今回の手術でも使われたエックスゲートだ。

皮膚の穴は1つでも、腹壁に3つの穴をあけて器��を挿入するマルチトロッカー法もあるが、最近は「切除した病変を取り出すのも大変なので、マルチチャンネル法にシフトしつつある」そうだ。

また、BJニードルという細い針を使うのも金平式。従来のニードルは、柔らかすぎて使いづらかったが、日本の質の高いスチールで作ってもらったそうだ。おかげで「胃でもBJニードルを1本刺し入れて使います。臓器を持ち上げたり、針を持ったり、縫ったりと欠かせません」と金平さん。単孔とは別の角度から器具が入るので、使い勝手が良いのだ。

整容性より安全性

単孔式内視鏡手術の平均的な手術時間は2時間半。標準的な手術に比べると、少し長め。これは、金平さんが「手縫い」にこだわっているからだ。

「自動縫合器では、切らなくていい健康な部分まで切ってしまったり、神経や血管を損傷することもあります。それが嫌なので、できるだけ手で切り、手で縫いたいのです」。ただし、胃の穹㝫部のようなぶらぶらの場所では自動縫合器で切っても狭窄しにくいのだそうだ。

昨年からは、胃の外側から部分切除を行うだけではなく、単孔式で胃の中の手術まで行うようになった。

「口から入れる内視鏡は胃壁を浅く切除するだけなので、GISTは取りきれないし、切除後に縫うこともできません。そのため、胃全摘になってしまうこともあります。でも、おなかからアプローチして胃の中の手術をすれば、腫瘍を切除して縫合までできるのです」

おかげで胃全摘をまぬがれる人もいる。従来から、腹腔鏡手術で胃内手術を行っていたが、技術が安定してきたので、昨年から単孔式で行うようになった。

今、急速に単孔式内視鏡手術が広まりつつあるが、最後に金平さんは「従来の腹腔鏡手術でも十分にメリットはあるので、何がなんでも単孔式でと考えないこと。とくに、がんの場合は整容性よりも根治性の確保が1番です」と語る。


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