骨転移の激痛に即効 「骨セメント療法」を進化させたISOP法
ISOP法でセメント療法はより正確、かつ短時間に

滝澤さんによると、1本の針で椎体全体にセメントを注入するためには、「椎体の中央線上で、腹側3分の1の位置に針先を持っていくこと」が理想。
ここに確実に針先を持っていくには、どうすればよいのか。そこでひらめいたのが、日頃から使い慣れているC型アームのエックス線透視装置だったのである。C型アームには「アイソセンター」という焦点があり、アームを回転させてどの方向から透視しても、ターゲットに焦点が集まる。つまり、病巣をアイソセンターに位置合わせできれば、縦横斜め、どの方向からも病巣がモニターの中心に位置することになる。このしくみを利用すれば、理想的な位置に針をさせるはずだと、気付いたのである。
そこで、モニター上でアイソセンターが確認できるように、黒いマーカーを付けた。モニター画面の中央が、アイソセンターに相当するのだ。このマーカーにターゲット、すなわち針先を置く位置を合わせる。前後から透視して位置を合わせ、水平方向から透視して高さを合わせる。これで、ターゲットがセンターポイントに来る。その上でアームを動かし、針の刺す方向を決める。滝澤さんによると、針を刺す椎弓根とモニター画面のマーカーを合わせると、理想��な針を刺す方向になるそうだ。勘に頼っていた針刺しの角度と方向が、透視モニターで確認しながらできる。これが、ISOP法なのである。
ISOP法を利用すれば、位置決めから局所麻酔、針の刺入まで、およそ10分でできる。さらに、セメントをこねてシリンジに詰めるのに3分半。セメントは冷やしながら粘りが出るまでこねないと、2分足らずで固まってしまう。だから、これ以上短縮はできないのだ。そして、注入におよそ3分。ISOP法の導入で、セメント療法はより正確、かつ短時間に行えるようになったのである。
9割で痛みが改善
セメント療法の特徴は、とにかく効果が早いことだ。注入したセメントは30分ぐらいで固まるが、安全のために術後2時間はベッドで安静にする。2時間後には、動けなかった人が座って食事ができるようになったり、車いすで来た人が歩いて帰るなど劇的な回復を示す人も珍しくないそうだ。
これまで、滝澤さんは1000カ所以上に骨セメント療法を実施、うち1割が骨転移の患者さんだ。痛みが消えたなど著効、軽快した有効の人を合わせると90パーセントに達するという。またセメントによって骨が補強されることに加え、セメントが固まるときに発する熱や毒性が周囲のがん細胞を死滅させる可能性も期待されている。1度治療した椎体で痛みの再発が少ないのも利点だ。
逆に、重い副作用として、漏れたセメントが肺に飛んで起こる肺梗塞や脊髄神経の損傷などが報告されているが、「頻度は0.1パーセントで、手術よりはるかに安全です」と滝澤さん。漏れが合併症の原因になるため、セメントの詰めすぎは厳禁。滝澤さんは、漏れを防ぐ一環としてセメント注入時の圧を抜く針も開発中だ。

[治療後X線画像]

注入したセメントは黒く映っている
がんの取り残しをなくし、再発を防ぐ
1度に治療できる椎体は5カ所まで。漏出事故を防ぐために、骨皮質の破壊が激しかったり、すでに脊髄損傷を起こして麻痺やしびれが出ているケースは、骨セメント療法の適応にはならない。滝澤さんによると「骨の中にがんがとどまり、脊柱管が狭くなっていない人が1番いい」そうだ。この春には、保険適応のセメントが市販されてやっと骨セメント療法が保険でできるようになる。
「痛みで動けない、寝たきりというのは、家族にもつらいもの。麻薬などを長く使うより、QOL(生活の質)も保てる治療法です。適材適所で、最適な治療法を選んでほしい」と滝澤さんは語っている。なお、滝澤さんは骨盤転移にも骨セメント療法の応用を開始している。