治療不能だった難しい場所のがんにも、切らずに対処できる 肝臓がんや肺がんの最新の武器、CT透視下ラジオ波凝固療法の威力

監修●保本 卓 市立吹田市民病院放射線科医師
取材・文●塚田真紀子
発行:2005年12月
更新:2019年8月

血流を抑えることも重要

また針の周囲が十分に熱くなるよう、血流を抑えることが重要だ。血流でがんが冷やされると、腫瘍に熱が伝わりにくく、壊死しにくい。よって動脈から多く栄養を受けるがんの場合は、動脈塞栓術でその血管を詰める必要がある。

この際に造影剤のリピオドールを使っても、超音波と違ってCTでは、その部分が白く鮮明に映る。貫通した針までもが、くっきりと見える。

肋骨の陰にできたがんも、CT画像には映るので、肋骨と肋骨の間から針を刺して「安全なルート」を確保することができる。


動脈塞栓術で血流を止めても、たまったリ
ピオドール内を貫通する穿刺針が明瞭に描出される

また、超音波では映りにくい腹腔内部に突出した肝臓がんも映し出すことができる。肺を通らないと、到達できないようながんも治療できる。が、気胸(肺がしぼむ)のリスクもある。

「画像診断を専門にしている放射線科医でないと、血管や臓器の位置関係など、画像から正確な情報をつかむのは難しいと思います。画像を理解しないまま治療をすると、血管や腸などを刺し、取り返しのつかないことが起こり得ます」

まだ新しい治療法だけに、より一層、信頼できる医師を探す必要があるだろう。

被曝のこともあるから、よほど難しい場所以外は超音波で治療するほうがいい、と保本さんはアドバイスする。

実際、保本さんは、まず超音波で治療をして、胃や腸といった超音波で見えにくい臓器に近い部分のがんにはCT透視を利用するなど、状況に応じて使い分けている。

【CT透視下ラジオ波凝固療法の適応】

  • 超音波で描出困難な病変
     超音波で不明瞭
     死角
      肋骨の内側
      S8(肝右葉前上区域と呼ばれる区域)ドーム直下など、
      経肺でのみ到達可能な病変
  • 深部の病変(尾状葉や肛門部など)
  • 肝辺縁や肝外突出病変
  • 血管に接する病変
  • 複数回の穿刺が必要な病変
  • 肝動脈塞栓術後の油性造影剤(リピオドール)集積部

こうして治療が行われた


肋骨の下に直径28mm大の肝臓がんがはっきりと見える。
超音波では描出が困難


CT透視ガイド下に腫瘍にラジオ波の穿刺針を刺したところ


ラジオ波凝固療法の治療後6カ月。再発は見られない

三浦さんの場合、肝臓の腫瘍は、皮膚から身体の中心に向かって13センチ入った、背骨の前にできていた。縦長の形をした4センチの腫瘍だ。腫瘍のすぐ前には門脈があり、後ろには大動脈と下大静脈、横には大腸が走っている。

保本さんは、それらの危険物をすべてすり抜けながら、1ミリ1ミリ、正確に針を進めていく。腫瘍が大きく、1度では焼き切れないため、身体の前と横から計4回、針を刺した。また肺の胸膜に接した腫瘍(5ミリ)は別の日に、わずか30分で治療できた。入院期間は肝臓と肺の治療を合わせて4週間だった。

三浦さんは、退院前にCT画像を見た時の感想をこう語る。

「うまくいったな、と感心した。肝臓も肺も、画像上は見事に治療できている。肺は期待通りやね。すぐに動けるし、食べられるし、副作用らしきものがなかったね」

保本さんは、このCT透視によるラジオ波凝固療法を肝がん(延べ100カ所)だけでなく、肺がん(延べ20カ所)や腎臓がん(延べ3カ所)にも行っている。肺は超音波では映せない部分だけに、期待がかかる。ただし、肝臓以外では、まだ十分なデータはない。

ラジオ波凝固療法は、2004年4月に保険が適応された。ところが今年9月、保険適応が取り消され、問題となっている。市立吹田市民病院でも、今現在、使う針によっては保険が効かない状態だ。


治療成績は超音波と変わらない

保本さんがラジオ波凝固療法を行う場合、まずは超音波で行い、それが難しい部分の場合、CT透視に切り替える。

市立吹田市民病院で2002年11月から2005年10月までに行った治療に関して、「超音波」と「CT透視」の治療結果を比較したところ、成績は変わらなかった。つまり、CT透視を使って的確に治療ができれば、たとえ難しい部分であっても、比較的簡単な部分と同じレベルの治療が期待できるということだ。

これまでに、「原発性の肝がん」の53人(がんは延べ71カ所)と「転移性の肝がん」の22人(がんは延べ45カ所)を治療した。38度以上の発熱のあった人が7人いたものの、出血などの重い合併症が出た人はまだ1人もいない。

毎回、ラジオ波凝固療法を行ってから1週間以内に、がんが壊死しているかどうかをCTで確認している。

延べ116カ所のがんのうち、「超音波」を使ったのが56カ所(全体の48.3パーセント)、「CT透視」が54カ所(同46.6パーセント)。それ以外の6カ所はすべて転移性の肝がんで、原発巣の手術の際に、同時に超音波を用いて治療した。

完全に壊死したがんの割合を調べたところ、原発性のがんで、「超音波」75.7パーセント、「CT」82.4パーセント。転移性のがんで「超音波」68.4パーセント、「CT」65.0パーセントと、同じだけの効果があることがわかった、という。中でも3センチ以下の小さいがんだと、完全に壊死する割合がさらに高くなる(『癌と化学療法』2005年10月号参照)。

今後、ラジオ波凝固療法の適応範囲は、他のがんにもどんどん広がっていくのではないだろうか。そうなってほしい。

「でも何でもかんでもこの方法で、となると大変です(笑)。技術的にも難しいですし、画像の知識も必要です。放射線科医は日本ではまだ少ないですしね。“超音波で見えないところでも治療できる場合がある”というぐらいに考えてもらったらいいと思います。それでも、将来的には、骨腫瘍、筋肉の腫瘍、副腎腫瘍などにも有用だと思っています。ラジオ波に限らず、これからこういった切らずに治す治療法(IVR)は、さらに拡大していくと思いますよ」

「希望」は情報から生まれる

ところで、今回の取材は、「すばらしい治療法がある」と三浦さんから編集部に情報提供されたのがきっかけだった。

「ぼくは、たまたま偶然、この情報をキャッチした。しかし、普通、このような情報はキャッチできない人がほとんど。それではいかん。“いかにして情報をみんなに平等に知らせるか”が大事になります」

《希望は情報から生まれる》と痛感している三浦さんは、いつもこのことを念頭に行動している。患者会活動もそうだ。


「患者にとって、何も治療の手がないと
言われるのが一番つらい」と語る三浦さん

「『何にも方法がない』と言われることほど、患者にとって最悪なことはないわけでね。希望がなくなることほどつらいことはない。何か手があれば、生きる希望につながる。治るかどうかは別にして、とりあえずそれで少しでもしのげる可能性があれば、それが大きな希望になる。とにかく僕自身、こんな治療で危機をすり抜けてきたけども、これからもなんぼでも再発してくるので、“とりあえず”ということや」

今回の治療によって、腫瘍マーカーはなだらかに降下した。大きく下がらなかったことで、まだどこかにがんがあると予想される。

また、肝臓がんは多発してくる性質があり、それが局所治療としてのラジオ波凝固療法の最大の敵だ。肝臓内に多発している場合は、いったん壊死させても他の部位に再発しやすく、その割合は単発の場合の約2倍にのぼる。

三浦さんは現在、さらに次の手を考えている。こんどは重粒子線治療だ。決して希望は捨てない。

「同じがんになっても、ひょっとしたら治るん違うかと思って生きているのと、もうあかんわと思いながら生きているのとでは、生き方が全然違う。まあ、結果は別や」

そう語り終えると、すぐに三浦さんは午後からの診察を開始した。待合室のベンチは、彼を慕う患者でいっぱいだった。


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