チーム医療で推進する副作用対策 オリジナル「患者手帳」と「冊子」の活用でQOLの底上げを
かゆいところに手の届く副作用ケアのために
では、東京慈恵会医科大学腫瘍・血液内科では在宅で副作用に見舞われた患者さんをどのように支援しているのだろうか。もちろん、副作用が重症であれば入院による対応も可能である。
ただ、入院に至らないような比較的軽度な副作用も、患者さんのQOLを損なう上、食欲不振も招くため、栄養状態の悪化とそれに続く病勢の進行も考えられる。
そこで同科では、「化学療法の副作用シリーズ」という副作用ごとにまとめられた10ページ前後の小冊子を、同科独自に作成、待合室や病棟に陳列し、患者さんが自由に持って帰って参考にできるようにしている。
現在、冊子は「発熱時の対応」「下痢時の対応」「便秘時の対応」「悪心・嘔吐の対応」「骨粗鬆症の予防」「口内炎予防と口腔トラブル」の6冊が提供されており(図3)、続いて「味覚障害時の対応」が出される予定である。
これらの冊子は、相羽さんが編集長役を引き受け、看護師、栄養士、歯科技工士、薬剤師が執筆を担当という、まさにチームの総力戦で作っているシリーズだ。
「冊子は手作りに近いため、既存の患者さん向け冊子ほどには印刷や紙の質はよくないのですが、『かゆいところに手が届く』を基本に、一歩踏み込んだ内容になっています。そのため、患者さんがご自宅で実際に直面する副作用の対応の仕方について、具体的に書かれており、実用性の高いものに仕上がっています」と相羽さん。
実際に「悪心・嘔吐の対応」の内容を見てみると、「原因」「症状を抑えるためのポイント」「悪心・嘔吐に有用な制吐剤」「さっぱり食べられる料理レシピ」などの項目が並び(図4)、冊子を読んだその日から実行できる内容ばかり。写真やスタッフの手書きイラストも多用され、実に親しみやすい。
相羽さんは、「やる気のあるスタッフが揃っているため、よい冊子ができました」と振り返るが、「このような患者さんに役立つ取り組みを通じて、スタッフのやる気や知識がさらに増え、ケアの質のボトムアップにもつながっていると思います」と、一石二鳥の効果について触れた。


制吐薬の進歩と副作用の質の変化
相羽さんは、2013年6月にドイツで開かれた「がんの支持療法に関する国際シンポジウム」で、患者さんと医療者を対象とした「悪心・嘔吐に対する制吐薬の効果」についてのアンケート調査研究の中間報告を発表した。
その結果、嘔吐の実際の発現は、医療者が予測した発現率より低く、急性期の悪心についても実際の発現は医療者の予測よりも低かった。
ただし、遅発期の悪心については、発現率はかなり高くなっていた(図5)。

この結果について相羽さんは、「制吐薬の進歩により、10年前後以前に比べ嘔吐は大幅に減っていることが分かりました。
しかし、悪心についてはある程度抑えられていますが、依然として高い水準にあるといえます。つまり、嘔吐について医療者はやや過度に捉えているということと、今後は悪心のように化学療法薬による副作用だけでなく、精神的な要因もからむ複雑な症状への対応を迫られていることの2点が明らかになりました」と述べた。
そして、副作用の質の変化と、その変化に対する新たな対応を考える必要があるとした。
さらなる外来化学療法の向上に向けて
相羽さんはチーム医療の現状に触れ、「確かに、以前のように医師がすべてを決定するという風潮はほとんどみられなくなりましたが、現在も職種間の敷居は低いとはいえません。もっと自由に意見交換する必要があると思います。当科のモットーは『真のチーム医療を目指す』ですが、まだその実現までには時間が必要だと感じています。
また、一部には『がんが治癒するのであれば、治療による副作用もある程度は我慢してもらうしかない』という見方も残っています。しかし、医療の原点は幅広い視点で患者さんをケアすることであり、副作用を軽視することがあってはなりません」と結んだ。