乳がん患者さんが自宅で入力 医療者は病院でチェック

監修●奥山裕美 昭和大学病院乳腺外科・ブレストセンター薬剤師
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2014年10月
更新:2015年1月


医療者も情報共有 外来時にスムーズな対応

図4 医療者側に見える画面

一方、医療者側でもこの情報を共有する。医師らは患者さん1人ひとりについて経時的変化をグラフで見ることができる(図4)。つまり、何日にどのような副作用症状が現れ、それがどれくらいの強さだったのか、どれくらい続いたのかを一目で把握できるわけだ。

3週に1度の外来受診でもそれが活用される。

「『何だか具合悪い』という相談には対応が難しいのですが、具体的な項目が分かればサポートができます。患者さんの現状をきちんと理解したいという医師の要望にもマッチしますし、患者さんとのコミュニケーションツールにもなると高い評価を得ています。情報を事前に共有しているので診察時間も短く済みます」

もちろん、課題もある。高齢な患者さんは対応できるのか。

奥山さんは、「60代の方にも使用してもらいましたが、『娘に聞いてやってみる』と積極的で、次の外来時には『きれいに記録されていた』と喜んでいました。苦手な方もいるかもしれませんが、入力自体は選ぶだけという簡便性を丁寧に説明していきたい」と、年齢は大きな障害ではないとみている。

患者さんの主体性にも大きな効果

ここまでの導入事例を概観してもらった。

「同じ指標を使ってみると、同じ抗がん薬を使っても副作用が出る人、出ない人の差が大きいことが浮き彫りになりました。症状によっても出る時期が違っていて、グラフにしてみると医療者側にもインパクトがありました」

実際に患者さんの助けになったこともある。例えば、ある患者さんが頭痛に悩んでいることがわかった。聞いてみると、「鎮痛薬は我慢して飲んでいなかった」と答えた。「頭痛の予兆があるときに飲んでください。タイミングを変えるだけで少ない量でも効果が上がります」という指導につなげた。

また、自分で副作用の程度やペースをつかんで、「この時期からは出張OK」などと仕事のスケジュール管理に利用している患者さんもいるという。

「医療者側が見るグラフを自分も見たいという方もいました。副作用をセルフケアしようという積極的な考えにつながっていると思います。医療者と情報を共有することで安心感を得られるという声も聞きました」

医療従事者をうまく使ってほしい

ITを活用した副作用サポートの課題は何か。

「医療側は、情報を得るためにいろいろな要素を追加したくなります。しかし、患者さんの利便性が最優��で、入力を継続できることが大切です。入力項目は増やすべきではないと思います。基本スタイルはこのままで、患者さん自身が主体的に副作用をマネジメントするコツを掴み、治療を続けるサポートになったらと願っています」

外来通院で治療を行う患者さんへの呼びかけを聞いた。

「チーム医療の主人公は患者さんです。治療の副作用については、正確に医師に伝えることが大切です。『自分はこういう生活をしたいが、この副作用で非常に困っている。薬は効いているので続けたいが、軽くするにはどうしたらよいか?』など、具体的な質問を頂けると、医師は選択肢を出すことができます。医師に話しにくい場合は、薬剤師や看護師に声をかけていただけることで、解決につながる場合もあります。医療従事者と上手にコミュニケーションをとりながら、より質の高い生活につなげていただけたらと思っています」

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