「看取る」本当の意味を追求 医師・看護師らの密な情報交換が命
年間の看取りは500人 地域の在宅制度構築にも貢献
要町病院が在宅医療を始めたのは1994年。その後、法整備に合わせる形で2006年に在宅医療に特化した要町ホームケアクリニックを設置、病院副院長の吉澤さんがクリニック院長を兼任している。
同クリニックには重症度の高い患者さんが紹介されてくる傾向があり、吉澤さんは年間に在宅で100人、病院で400人を看取っている。
吉澤さんは、癌研究会付属病院(現・がん研究会有明病院)に麻酔医として勤務している時代にチーム医療の〝はしり〟を経験していた。
「外科の医師から『病棟で痛がっている患者さんがいるから、ちょっと見に来てくれないか』と言われることが増えたのです。そこで、外科の中堅医師と一緒に上層部に『麻酔科と外科で組んで緩和ケアをしたい』と直訴したら『すぐにやってくれ』となりました。今でいう緩和ケアチームが組織の中で発足したのです」
近年は、豊島区在宅医療相談窓口の創設に尽力し、区の在宅医療連携推進会議副会長を務めるなど、地域全体の在宅医療充実も担っている。
医師と看護師のコンビ 中身の濃い診療のために

訪問診療は、医師と看護師、運転手の3人で行う。患者を直接診る医師と看護師のコンビネーションが大切だ。看護師は全体の様子を見ながら医師をサポートする。
看護師の木根久江さんは「何軒も回るため、診療に中身の濃い時間を費やせるように、段取りや患者さんたちとの意思疎通にとくに気を使っています。医師の説明がわかっていない様子だったら、診療の後に補足でお話することもあります」
訪問看護との連携 見えない本音が見えてくる
訪問先数が増え続けることに対応するため、2013年には要訪問看護ステーションを併設し、ホームケアクリニックと緊密な連携のもと患者さんを診ている。
「通常、訪問看護は地域の訪問看護ステーションにお願いするのですが、電話などでは情報量や即応性に限界が出てしまいます。とくにここは重度の方が多いので、より詳しい情報交換や緊急対応が必要な要件が多く、併設の看護ステーションがあることで効果的な活動につながっています」
訪問看護ステーションの看護師は医師らの訪問診療とは別に、患者さんごとに作成したプランにしたがって週1~数回訪問するのが基本。健康状態のチェックや医療機器の管理、服薬管理などが主な仕事だが、それとは別の大きな役割もある。同看護ステーション所長の鈴木悦子さんは、部屋の中を見渡し、そして患者さんや家族との対話の時間を大切にする。
「部屋を見れば生活の変化がわかります。また��患者さんたちは医師や看護師よりも私たちに気軽に話しかけてくれます。医師には話せない本音をこぼす方もたくさんいらっしゃいます」
吉澤さんも言う。「彼女たちは在宅で話しやすい雰囲気を作ってくれる。最も重要な情報源です。訪問看護ステーションとの連携なくしては、在宅医療は成り立ちません」
こんなことがあった。がんを患った40代の女性が在宅医療を受けていたが、状況がかなり厳しい段階に入った。訪問看護師は「家族の考えがよくわからない」とカンファレンスで相談した。患者さんの夫は、外来面談では吉澤さんに対して妻の死期が近いことを理解している様子だった。しかし、訪問看護師には「回復を信じている」と言い続けた。看護師としては次の段階の話をしなければならない時期と判断し、迷っていたのだ。
吉澤さんは、こう答えた。「ご主人が回復を信じているというのであれば、看取りや最期の話はすべきではありません。その気持ちを大切にしてください。そしてご主人が現実を受け入れたときに、看取りの話をする場を作ってください」
カンファレンスの後、吉澤さんは、「訪問看護師から家族の本当の気持ちについて聞かなければ、患者さんにもご主人にも大変な苦痛や心労をかけてしまうところでした。何でも報告し合える雰囲気がチームの命です」と語った。

患者さんの死に泣けるほどのケアを
吉澤さんは、緩和ケアの看取りについて、「昔は、看護師の間で『看護師たる者、患者さんの死にいちいち涙していたら、仕事にならないから毅然とするように』といった先輩からの指導もありましたが、私は泣いてもいいと思います。私も涙が出ます。それは死の悲しさよりも、頑張った患者さんに寄り添えたことに感謝する涙だからです」