充実した医療スタッフのもとで、層の厚い緩和ケアを提供
多様なカンファレンスがスケジュールに

取材に訪れたのは4月の第2木曜日。この日の緩和ケアチームのスケジュールを見ると表のようになっていた。
このうち、3:00~4:00PMの「緩和ケアチームカンファレンス」が毎週木曜に開かれるのを除いて、あとは毎日行われており、同施設での緩和ケアに対する意気込みが感じられる。
早朝の病棟回診の後は、「緩和ケア病棟」入院患者に関する病棟カンファレンス(スタッフミーティング)が開かれる。ここではケア病棟入院患者さんそれぞれの状況を考慮したより細かいケアの検討が行われる。
病棟看護師の五十嵐由理香さんから、1人ひとりの状況が報告され、それぞれに意見を提示し、情報を共有する。
「Aさんから洗礼を受けたいとの申し出がありました」「Bさんは娘さんとの間に乖離が生じているようで、お2人一緒にいる場で、今後の対応を話し合ったほうがよいと思います」「Cさんは認知症を来たしており、食べ物を食べ物と認識しておらず、食欲不振に陥っています」など、報告された19件ともそれぞれ異なった症状、家族状況などを持ち合わせており、それら1つひとつに対応していく。
聖路加国際病院の緩和ケアの特徴は、平日(月~金曜)に受け付けている緩和ケア外来と、毎日定期的に開催される内容の異なるカンファレンス(スタッフミーティング)。「これほど緩和ケア外来に力を入れている施設は他にないのでは」と緩和ケア科部長の林章敏さんは述べる。また1日にこれほど多様なカンファレンスが開かれている施設もそう多くはないだろう。
週1回「振り返りの会」を設ける

午後からの病棟カンファレンスの参加メンバーは、松田さんを中心に、医師、看護師、それに音楽療法士やチャプレン(牧師)などが加わる。緩和ケアを要する患者さんの中でも、とくに問題を抱えている患者さん、対応に注意を要する患者さんについて集中的に話し合うことを目的としている。
毎日開かれているが、木曜日はこれに加えて「振り返りの会」があり、亡くなられた患者さんについて振り返る時間が設けられていた。おそらくこの病院ならではの対応だろう。
亡くなられた患者さんの生前の様子、ケアにおいて対応に苦慮した点などを回顧しながら、今後のケアに結びつけることが狙いだが、松田さんによると「〝振り返りの会〟は、同時に患者さんの死に対するスタッフの心のトラウマを和らげる役割を果たしています」という。
充実した内容のチームカンファレンス
このような中で、内容的に濃厚で、より専門性の高いのが毎週木曜午後に開かれる「緩和ケアチームカンファレンス」。現在、同病院緩和ケアチームは総勢6人。内訳は緩和ケア医1人、精神腫瘍科医1人、看護師2人、薬剤師2人となっている。ここに腫瘍内科医、外科医や他病棟の看護師などが加わる。
毎日行われているチーム活動の集大成となるもので、トータル的な緩和ケアの対応がこの場で論議され、統一的な見解として情報が共有される。
松田さんによると、毎回15~20例が報告されるとのこと。加えて、外来併診患者の情報共有も行う。内容は「せん妄症状が発現し、昼夜が逆転、夕刻に服薬処置を行った」「不眠で薬物治療を開始した」「死の直前まで趣味を楽しまれ呼吸困難が始まったため入院。1週間後に亡くなられた」「本人はまだ迷っているものの、奥様がケア病棟を希望している」など様々だ。
カンファレンスには、腫瘍内科部長の山内照夫さん、消化器センター長の太田惠一朗さん、精神腫瘍科部長でリエゾンセンター長の保坂隆さんらそうそうたるメンバーが顔をそろえており、専門的な見解を的確に述べ、対応策を提示する。
取材を通じて、同院では緩和ケアを必要とする患者さんに対し、細心の注意を払い、専門知識に基づく対応と層の厚いスタッフで、最善の緩和ケアを提供しようとする姿勢が伝わってきた。
