多職種による切れ目のない訪問看護 スタッフ間の密な連絡が鍵
役割分担で生活全般を見る
最初に訪問したのは佐治さん。足のむくみが強く、体全体がガチガチに硬かった。立ち上がりと歩行時にはふらつき、安心できなかった。足の浮腫をドレナージし、ガサガサになっていた皮膚にクリームを塗ってケア。運動療法をすると、みるみる高波さんの顔が和らいだ。高波さんはケアマネジャーの金井さんを呼んでこう言った。
「すごく動きやすくなった。ぜひ続けたい。こういうリハビリもあるんだね」
金井さんは胸を撫で下ろした。
高波さんはあまり福祉用具を使っていない。ベッドは数年前に購入した簡易型のベッドを使うことにした。福祉用具専門相談員がサイズの合うベッドマットを検討し、動かないようベッドに紐で固定した。起き上がり・立ち上がり時に危険がないかリハビリ時に確認し、使用している。──自分の物を使いたいという気持ちを尊重し、必要なサービスのみを利用する──そのような工夫は患者さんの尊厳を守り、ひいては社会保障費も無駄にしない利点がある。
高波さんを担当するチームは、この2人のほか、作業療法士がもう1人、看護師、ヘルパー、そして福祉用具専門相談員。月曜から金曜まで、毎日誰かが1時間程度訪問している。
役割分担は、佐治さんら作業療法士は週2回、身体のリハビリと環境の調整、福祉用具の使用チェックなど。同行取材した日には、カレーの雑談でリラックスさせたあとに、関節の運動、硬結している筋肉を緩めての血行促進、筋力トレーニングを行った。初めは立ち上がるのも苦労していた高波さんだが、今は台所に立ってカレーを作るほどになった。

看護師の神谷和江さんは、週1回の訪問で、薬の管理、疼痛コントロール、褥瘡管理、ストーマや抗がん薬投与のためのポートのチェック、入浴の補助などたくさんの仕事をこなす。チームとして蓄積した高波さんの情報を病院の医師に連絡するのも看護師の役割だ。
週2回通うヘルパーの主な仕事は、買い物だ。高波さんは身の回りのことはおおむねできるため、買い物好きの高波さんに代わってスーパーに向かう。「はい、今日はこれでお願いします」。高波さんが手渡した買い物メモは実に細かく書きこまれている。赤味のトンカツ用ロースかつ、かまぼこ、添加物の入っていない乳製品……。
「話ができるのは楽しい」
高波さんは、佐治さんに「今日はちょっと肩が痛いな」と声を掛けた。最初の遠慮と硬さは取れ、自分でも積極的にリハビリに参加している。訪問看護サービスを受けていることに対して、「来てもらって少しでも楽になるとうれしい。でも、サービスにおんぶに抱っこじゃ、気力が萎えるのでなるべく動くようにしています。テレビと読書だけではなく、来てもらった人たちと話をするのは新しい情報を得られるので楽しい。ありがたいですね」と笑顔で話した。
情報共有の大切さ
同ステーションでは平均180人ほどの訪問看護を受け持っている。毎日複数の家庭を訪問するのでその記録も大変だ。そして重要なのが、スタッフ同士での情報共有。
「このステーションでは、対面でのコミュニケーションに加え、書面での申し送り記録による二重の連絡方法を取っています」(佐治さん)
対面コミュニケーションができるのは、同じ患者さんを見る異なる職種のスタッフが同じ事務所にいるからだ。高波さんを担当しているケアマネジャーの金井さん、看護師の神谷さん、作業療法士の佐治さん、入江さんの4人が同ステーションの所属。
「微熱がありました」「足の指を玄関の上がり框にぶつけました」といったことなど、その日にあったことを丁寧に伝え、文字にも残す。次に行ったスタッフが「足の指は痛みますか?」と話し掛ければ様子がわかり経過が追える。
金井さんは言う。「チームとして切れ目なく経過を追うことが大事。患者さん主体の生活は情報の共有で成り立っています」
