社会復帰までが医療の責任 退院してからもしっかりフォローアップ
「食べてはいけないものはありません」
10月の「食道がん患者教室」を覗いてみると――。
まずは、医師が食道がんについて改めて説明する。手術についてどのように行ったかを振り返るとともに、「消化器がん手術のうち、最も大きな手術の1つです。しかし、しなければよかった、と思ったり、寝たきりになったりしないで生活復帰、社会復帰をしてください。そのコツをお伝えします」と話し、胸やけや逆流症状が起こる理由を図解した。さらに退院後2~3カ月の過ごし方でよい習慣づけをすることが体力回復の基礎となると強調した。
続いて看護師がレクチャーし、「食べられない」→「体力低下」→「だるい・息切れ」→「動かない」→「食べられない」という負の連鎖を断ち切ることが大切で、「気になった症状はメモを取って外来時に持参しましょう」と呼び掛けた。
リハビリを担当する理学療法士は、生活を送る上での身体能力の回復のための運動の必要性を説き、推奨する運動時間として「中等度運動:週に150分」「強い運動:週に75分」「筋トレ:週に2~3回」という目安を示すとともに、具体的に実行できそうな運動法を紹介した。
例えば、友だちと会ってコーヒーを飲むのならば友だちとの散歩に代えたり、エレベーターを利用するときには1階分歩いてみたりという生活スタイルの見直しでも十分だとした。無理なくできそうなイスに座ってのストレッチや筋トレも紹介し、「いつからスタートしますか」「何カ月後に何がしたいか目標を決めましょう」というワークシート形式の資料も配布し、参加者のモチベーションアップに努めていた。
飲み込みと声の問題を担当する言語聴覚士は、飲み込むためのリハビリとして首や肩のストレッチや発声練習をあげた。「声を出すことも筋肉のトレーニングになるので、出せるところまで長く出す練習を」「舌を出したままつばを飲めるかどうかを目安に、舌を左右に動かすストレッチを」などと勧めた。
管理栄養士は「食べてはいけないものはありません。食べ方が重要」と、少量をゆっくりよく噛んで食べ、少ないと感じた場合は間食で補うのがよいと説明した。さらに、よく噛むことを実感してもらうために、食べやすい食品例として一口ゼリー、食べにくい食品例としてせんべいを患者さんたちに配布し、ゼリーは15回噛んで飲み込む、せんべいは30回噛むという方法で食べてもらった。30回噛んだ後にせんべいを食べられなかったという人はいなかった。「ダメだと思わずに、口に入れる1回の量を少なくし、ゆっくりよく噛めばいろいろなものが食べられます」と話した。
最後にがん専門相談員が、有効に活用すべき訪問リハビリや配食サービス、ヘ��パーなど地域の生活支援システムを紹介した。

「手術準備外来」では術前の対応
では、術前のケアはどのように行われているのか。同院では以前から、食道がんだけではなく、広いがん種を対象とした「周術期患者管理チーム(East Surgical Support Team: ESST)」を組織して、外科医、麻酔科医、看護師、栄養士、理学療法士、歯科医、薬剤師、糖尿病専門医などが連携する体制を取っている。その核となるのが「手術準備外来」だ。がん種や患者さんの状況により受診しないケースもあるが、食道外科は全員が受診する。
手術の意思の確認と、病状や治療経過の確認のほかに、食道がんでは、手術前から声出し訓練、飲み込みの練習を始める。舌を出したり引っ込めたりという簡単な動作で舌根部を鍛える。化学療法をしたあとに手術を行う患者さんへの対応も大切で、副作用に悩んでいるかどうかなどについて専門の看護師が近い距離で話をする。
情報共有と専門知識で退院後も的確なケア
食道がん患者教室で指導をした食道管理栄養士の千歳はるかさんは、「食道がんの術後で難しいのは、飲み込み具合などで個人差があることです。教室では一般的な話になりますが、個人指導もして解決に導きます。チームとして多職種でかかわると、患者さんはそれぞれの専門科に広くサポートされているという安心感が得られます。我々医療側もメンバーと直接話をし、情報共有することでお互いの連携ができるとともに外来での参考にもなります」と話した。
広い領域の手術だけに、術前から退院後の社会復帰までのケアをリードする同院の取り組みは他院でも参考になりそうだ。
