自由な雰囲気のカンファレンスで討議 多くの専門家で1人の患者を診る
多職種だからこそ見える解決策
カンファレンスの中心になるのは整形外科で、各科が患者さんの症例を持ち寄ってくる。1時間で5人ほどが議題となる。出席は、看護師、薬剤師、理学療法士・作業療法士、放射線医など様々。SREの患者がどうすれば日常生活を送れるようになるかを討議する。療養先や治療方針も含まれる。今の問題、これから問題になることをそれぞれ専門的な立場から意見を出し合う。放射線や手術でもっと治療できないかという案も出るし、緩和ケアの話も出る。
「寝たきりで病院で過ごすことが多くなりがちなSREの患者さんに関して、緩和ケア、リハビリ、整形外科、病棟看護師、ソーシャルワーカーが知恵を出し合い、自宅に帰りたいなら何が必要か、どのようにして帰るかが話し合われ、解決策が探られるようになりました。医師だけではどうしても方向性が見えなくなることがあるので、多職種の意見はとても貴重です」と鶴丸さん。
キャンサーボードで治療方針決定
もう1つの大きなカンファレンスはキャンサーボードだ。規定では隔週の木曜朝だったが、会議に掛ける事案が多く、ほぼ毎週の開催となっている。目的は診断と治療方針の策定で、参加は各科の医師、看護師ら。多いときには50~60人が集まる。
ある会議では、70歳代後半で膵がんが再発した男性が議題になった。手術で切除することはできるが、本当に取っていいのかが焦点になった。膵臓を切除すると、血糖コントロールが大変になる。退院後にインスリン投与や食事コントロールなど年単位でできれば暮らしていけるが、この男性の場合はどうか。家族もなく、そこまで自己管理ができるかどうか。
本当にその患者に良い治療選択を医師1人で決めるのはとても難しい。患者の立場や医学以外の社会的観点からも考えなければならない。何が最良かをディスカッションする場となった。
「治療する立場としていろいろな意見を聴いて、最後は患者さんと最終的に決める、ということになります」(鶴丸さん)
緩和ケアを担当するがん治療センター師長で、がん看護専門看護師の中野真理子さんは、ある事例を話した。
「医師が勧める治療を患者さんが嫌がっていることがありました。その理由がわからないということで、看護師、心理士と相談していくと、費用面や心理状況、社会背景が明らかになり、患者さんの気持ちが理解できるようになりました。結果、経過観察など治療の選択肢を広げて考えることになりました」
「専門家が来てくれているんだね」
多職種によるカンファレンスは患者には見えないところで行われているが、患者たちはどのように思っているのだろう。
中野さんは、「多職種で検討されている実感はないかもしれませんが、日常の我々の活動として、いろいろな職種が患者さんのところに行くので、患者さんから『専門家が来てくれているんだね』と言われることもあります。医師の中には、『明日、みんなで会議してあなたのことを話し合うから、次の��に説明しますね』と会議の予告をする人もいます」
手厚い体制を取ってもらえば患者としても心強い。しかし、留意点もある。
「1人の患者さんと接するときに、いろいろな職種が来て同じことを繰り返し聞いたり、言ったりするのは情報共有がうまくいっていない表れです。我々の間で伝わっていないことがないように、情報のやり取りには十分気を付けています」(中野さん)
多くの医療スタッフがチーム医療を支えている。