外来がん化学療法副作用対策 薬剤師外来の活用で安心のできる化学療法を
薬剤師外来、電話対応を副作用対策につなげる
そして、同病院に特徴的なのが、経口抗がん薬治療に対して薬剤師外来が設けられていることだ。2009年に開設され、全国の薬剤師外来の草分け的存在になっている。当時は外来療法でTS-1を服用している患者さんの緊急入院が多かったことがきっかけだったが、薬剤師が介入することでその数を大きく減らすことに成功した。
薬剤師外来の目的は、経口抗がん薬を在宅で服用する患者さんに対して、円滑に治療遂行できるように支援をすること。近年、新たな経口抗がん薬の開発により経口薬での治療を受けるケースが増えていることから役割の重要性が増している(図4)。

山口さんは「薬剤師外来は、医師が患者さんを診察する前に薬剤師が入って患者さんに話を聞く場です。医師も薬剤師から情報が回ってくるので、スムーズに治療に移れます。長い時間をかけて患者さんの様子を丁寧に聞きます」と存在感を強調した。
山口さんはさらに、「新しい治療法が開発されたり、組み合わせができたり、投与の順番が変わったりするのでレジメン(時系列的な治療計画)は何百種類にもなるし、治療部位によっても投与法は異なります。一般的な病院では、外科医が抗がん薬を使用しているケースが多いのですが、ここでは呼吸器科でも抗がん薬治療を専門に行う内科医と手術を専門に行う外科医がいてお互いに情報交換して治療方法を決定する中にも薬剤師が加わっています」と院内のコミュニケーションの大切さを示した。
本人の体質や、単剤と複剤では発現しやすい副作用が違うなど、個別対応が大切なだけに、患者さんへの説明は何度も繰り返して説明する。「医師ではなく薬剤師にだけできる相談もあります。記録としてカルテに残して医師に伝えます。有効な治療につなげなければなりません」
さらに、病院側から患者さんに電話をかけて状況を聞くというテレフォンフォローアップも特徴だ。1週間後など、副作用が出やすいタイミングを見計らい、電話で連絡を取るという取り組みも一部の薬剤で開始している。そのほかにも、患者側から具合が悪い時や不安な時にアプローチするホットラインでは専用の電話番号が設定され、薬剤師と看護師が対応している。すぐに病院に連絡すべき副作用としては、「尿量が少なくなる」「むくみが出る」「体がだるい」「息切れする」「空咳が出る」といった症状を列挙して、注意喚起している。
そして「薬薬連携」だ。患者さんの最寄りの調剤薬局に情報を伝え、家に帰ってからは薬局にカバーしてもらおうというもの。「地域全体でカバーしていこうということです」と山口さん。伝えるのは、①患者個人のレジメン、②投与量の評価、③副作用状況などで、副作用については継続的な介入が求められている。
患者さんとの密なコミュニケーション
山口さんは「1回目の治療が良ければそれでいいかというとそうではありません。2回目、3回目と進むにあたり、副作用のグレード分けが必要です。下痢、好中球減少などは医師が見逃しがちなエリアでもあります。本当に大丈夫かということをチェックするのが薬剤師の仕事。その日のデータや様子で気になる事項があったら、『今日の治療を開始しても大丈夫か』ということも含めて医師にフィードバックします。治療ができずに帰宅せざるを得ないケースもありますが、それも患者さんのためです」
このような綿密な連携で患者との意思疎通を大切にしていることの1つのエピソードがあった。通院治療センターに通ってくる患者と薬剤師が接するうちに親しくなり、患者が写真を趣味としていることがわかった。病院のロビーで開催する写真コンテストに出展してみてはと紹介すると、それが本人にとって生活の励み、治療の励みになったらしく、その患者は新聞の読者欄に投書を送った。「機械的なイメージの強い大病院の治療だが、この薬剤師さんはとても親身になって説明、対応してくれた。今後もぜひ続けて欲しい」という内容だった。ロビーの写真コンテストには患者が撮影した風景写真が飾られた。山口さんは「患者さんからもわかってもらえるような活動をさらにしていきたい」と語った。
山口さんは患者への呼びかけとして「がんと闘おうという気持ち、気力を持っていただきたいと思います。今は副作用対策の薬剤もたくさんありますから。気力がないと治療の効果も半減してしまいます。夢や希望を持っていただけるお手伝いをしたいと思います」と話した。