自分がイメージした〝勝ちパターン〟を作る

取材・文●伊波達也
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2015年3月
更新:2015年8月


福島医師の脳神経外科病院の門を叩く

福田さんが脳神経外科医を目指したのは医学部を卒業する頃。中学生の頃は、脳の進化に興味があり、そういう研究をしたいと考えていたらしい。医学部時代も脳への興味は尽きず、卒業後は脳外科を選んだ。

「大学の医局に入りましたが、半年後、外の病院へ出て、複数の病院で、救命救急をはじめ臨床経験を重ねました」

福田さんは専門医も修得し、脳神経外科医としてあくまで手術のスペシャリストになりたいと考えた。そして、最も難しい手術ばかりを手がけ、〝神の手〟と言われる、福島孝徳医師が立ち上げた脳神経外科専門病院の門を叩いた。

過酷な修行の日々が続く

「初めて福島先生の手術を見たときは、強烈なインパクトがありました。それまでには見たこともないとんでもない難しい症例をいとも簡単にやるのに、ただびっくりしました。これだったら僕でもできるんじゃないか、と勘違いするぐらいでした」

しかし、そこからは過酷な日々が続く。手術禁止令が出たこともあったという。

「皮膚を切るところから全部ダメ出しされました。皮膚を切るのに出血してそれを止めるようなことを繰り返すのでは全然ダメだ、と言われました」

まさに修業の毎日だった。夜、眠っていても夢の中で3回ぐらい手術をしていたこともあると笑う。

その後、腫瘍をはがす直前まで手術を任されるようになり、半年後には完全に手術を任されたという。

〝手術の怖さを知り、撤退する勇気を持つ〟

「当時、その病院は、すべて予定手術で、年間600例以上を、3人の常勤医で行っていました。3年間みっちりと手術に明け暮れる毎日はすごく密度の濃い日々でした」

福島医師からは〝手術の怖さを知り、無理をせずに、撤退する勇気を持つ〟ということを教えられた。

「例えば頭の中を3次元で見ていて、自分が想像しているのと違う風景が見えたときは、潔きよく撤退しろということでした。自分の想定外の手術に入ってしまったときは、必ず止まって相談しろと言われました。無理に進んでいいことは1つもないということです。手術のやり直しはきくけど、脳に傷をつけたらやり直しがきかないということを肝に銘じろということでした」

福田さんは、今も当時の教えを胸に刻んで日々の手術に臨む。

放射線治療により 機能能力の予後が劇的に改善

福田さんの脳神経外科医としてのもう1つの軸が放射線治療だ。中でも、がんの転移性脳腫瘍に対する治療は増えている。

「きっかけは、福島先生から、高精度放射線治療機器(サイバーナイフ)を導入するので、その役目を担えと言われたんです。福島先生ほど���腕前でも、機能温存が難しい症例を何とかするには、放射線治療も重要だと理解していました」

年間200例の放射線治療にも従事した。そんな中で、転移性脳腫瘍に対する治療も始める。転移性脳腫瘍は、肺がんや乳がんをはじめあらゆるがんと長く闘っている人に発症しやすく、がんの10%ぐらいに発症すると言われている。

「当初、転移性脳腫瘍には興味がありませんでした。しかし、がんの脳転移で藁をもつかむ思いで来院される患者さんたちの話を聞いているうちに、何とかしてあげなくてはと強く思いました」

実際、放射線治療をすると、機能能力予後は劇的に改善することがわかった。

「遠隔転移が起こると、麻痺や失語、日常生活の悪化などが著しくなります。動けない、食べられない、意思表示ができないなどQOL(生活の質)がとても悪く、つらい終末期を送らなくてはなりません。患者さんやご家族の希望にもよりますが、そういう人たちに少しでもQOLを良くして、人生の締めくくりを過ごしてもらえばという思いで治療にあたります」

最新の高精度放射線機器の導入で治療の幅広がる

現在、福田さんは、手術経験が豊富な脳神経外科医ならではの判断で、手術か放射線治療かを精査し治療にあたる。同院では、放射線科の外来も担当し、自ら治療計画を立てる。さらに同院は、2014年7月の移転に伴い、全国で8台しかない『True Beam STx. with Novalis』という高精度放射線機器を導入し、さらに治療の幅が広がっている。

取材日の夕方にも、頭蓋咽頭腫という下垂体、視床下部、視神経などの重要機能に接する腫瘍を持つ60代の男性が治療に訪れていた。

地域密着の拠点病院での高度な治療提供に邁進

将来に向けての脳神経外科医としての理想の診療態勢について、福田さんはこう述べる。

「これからの脳神経外科医、とりわけ脳腫瘍に取り組む専門医は、手術手技を鍛錬することはもちろんですが、患者さんにとって最良な予後を考えたときの最適な治療は何かを考えて選択することが大切になります。そのためには化学療法や放射線治療についても理解を深め、治療にあたることが求められます。そして、予後経過の管理、リハビリテーションや緩和ケアも重要です。もちろん自らが担当しなくても、それぞれの治療の専門家と連携するのでもいいでしょう」

脳腫瘍といえば、大学病院をはじめとする全国規模の主要病院でしか高度な治療が受けられない現状で、地域密着の拠点病院でありながら、高度な治療を提供するため、福田さんは日々、仕事に邁進している。

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