第一線を退いても、地域医療の現場から女性のための医療を実践し続ける

取材・文●伊波達也
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2015年5月
更新:2015年9月


子宮頸がんに対しては、定期検診と予防ワクチンの両輪でいくのが理想的

その後、子宮体がんは欧米型食生活の影響などもあり、ものすごい勢いで増えてきた。黄体ホルモン療法の対象になる40歳未満の患者さんは、30年前と同じように6%程度だが、体がんが増えたために若い患者さんも増えていて、妊娠を希望して治療を求めてくる患者さんも増えているという。

「そういう人が訪れるたびに、何とかしてあげたいと思います。ただ、こういう患者さんたちの多くは、25歳ぐらいのときなら普通に妊娠できたかもしれない人たちです。妊娠すればプロゲステロンは卵巣や胎盤から山ほど分泌されますから、自ずと子宮体がんも予防されるのです。ライフスタイルは様々ですが、若い女性にはその点を認識しておいていただきたいと思います」

一方、子宮頸がんは定期的な検診により早期発見さえできれば、怖くないがんだと上坊さんは言う。

「当院に異形成で来院する方が多いのは、圧倒的に検診のお陰だと思います。公には検診率は37%と言われていますが、私の印象では50%近くの方が受けていると思います。市町村の検診のほかに、職場の検診、人間ドック、妊婦健診など、早期がんや前がん状態を見つけ出す機会が増えているのは確かです。

検診率が80%ぐらいまでになれば、子宮頸がんでなくなる人は8割くらい減ると思います。予防ワクチンについては今も議論になっていますが、現在のワクチンで7割程度予防できますから、ワクチン接種で予防ができるならそれにこしたことはありません。検診と予防ワクチンの両輪でいくのが理想的です」

上坊さんが医師になった頃は、子宮頸がんのほとんどが進行がんだった。最近は早期がんが増えているものの進行がんは減っておらず、死亡率も近年上昇しているのが残念だという。

充実したレジデント時代を過ごす

当時を振り返りながら、上坊さん自身のその頃の思い出も語ってくれた。

「学生時代は、先生方はほぼ全員男性でしたが、北里大学病院に来ても周りは男性ばかり。50人近い新人レジデントの中で女性はわずか3人でした」

男性ばかりの職場でも、上坊さんは何のストレスも感じなかったという。

「女性だから損をしたということは何1つなかったです。もちろん得したこともなかったと思いますが。仕事は超多忙でしたけど、給料は同じだから同じように働く。ただそれだけです。手術も男女関係なくどんどんやらせてもらえた。〝この手術、私にやらせてください〟と申し出たりしていました」

手術をやりたくて、やればやるほどうまくなるという時期だったと振り返る。

女性医師の復帰を支��する訓練システムの構築が必要不可欠

上坊さんは学会などでも積極的に発表したり質問したり目立っていた。

「苗字も珍しいので〝北里のあの珍しい苗字の女医さん〟って覚えてもらえましたよ」

女性医師として仕事に邁進し、教授にまで上り詰めた上坊さんに憧れて婦人科を目指した女性医師も多い。

「〝先生の学会での発表を見て、婦人科に行こうと思いました〟なんて言われることがありますね。〝へぇ~そうなんだ〟って思いました」

今は女性医師も増え、若い産婦人科医の7割ぐらいが女性になっていることには隔世の感があるという。しかし、妊娠、出産、子育てなどを機に、仕事を中断せざるを得ない女性医師も多い。

「私たちの頃も女性は子どもを産むと休むし、辞めるからダメだと言われていました。私自身は26歳の時に出産しましたけど、当時育休という制度自体がなかったので、出産前後で4週間と8週間休んで、すぐに復帰しました。〝ここで辞めたら、2年間頑張った苦労が水の泡〟という気持ちはあったと思います。が、まあそれ程悲壮感があったわけではなく、忙しいけれど仕事自体が好きだったのでしょうね。

今は逆に育休を取らないでがんばるような人は浮いちゃうみたいです。医師としていい仕事がしたいと思う人が、活き活きと仕事に打ち込めるといいですね」

育休の良さは認めつつも、伸び盛りの若い女性医師にとって2、3年のブランクは復帰を難しくすることがある。増えている女性医師が活躍できないのは、個人にとっても、医療界にとっても、国民にとっても、大きな損失なので、育休をとった女性医師の復帰を支援する訓練システムの構築が必要不可欠だと上坊さんは言う。同時に、女性医師のパートナーは、「育児は2人の共同作業」という認識を持つべきだと言う。

〝まだまだやりたいことが一杯〟

「私の医学部時代の同級生102人の中で、女性医師はわずか8人。でも、皆、今でも元気に現役で仕事をしています」

上坊さん自身も、まだまだやりたいことがたくさんあるという。

「ずっとがんの治療を中心にやってきましたから、婦人科腫瘍の専門家としての経験を活かしつつ、女性の病気をトータルで診ていきたい。そして女性がいきいきと生きていけるように医療を通じてサポートしていきたいと思っています。女性は年齢ごとにいろんな悩みを抱えています。そういう人たちに寄り添って話を聞いたり、年齢や社会状況などを考慮しての診療をして、女性が今以上に活躍できる社会を実現するために医療の世界で頑張っていきたいと思います」

未来を担う人たちへの教育にも関わりたいという。

「若い人たちに、様々な病気に対する知識や健康教育をできる場を作りたいです。婦人科の病気のみならず、生きていく上で大切なあらゆる基本的なことを教えていけるような場を持てたらなと思います」

そう話す上坊さんの眼差しは、生き生きと輝いていた。

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