ここ数年で治療がガラリと変化 メラノーマの個別化医療
効いている期間が長いのがイピリムマブの特徴
一方、免疫療法薬のイピリムマブは、従来のがんの治療薬とは、作用メカニズムが全く異なっている。
「がんを攻撃するリンパ球の表面には、CTLA-4という受容体があります。がん細胞が出す特殊な物質がここに結合すると、リンパ球の攻撃力は低下してしまいます。イピリムマブはCTLA-4の抗体なので、リンパ球の表面のCTLA-4と結合し、がん細胞が出す物質が結合するのをブロックします。そのため、リンパ球の本来の攻撃力が発揮されます。つまり、イピリムマブは自らががんを攻撃するのではなく、免疫の力が落ちないようにすることで、治療効果を発揮するのです」
臨床試験は、イピリムマブ+ダカルバジン併用群と、ダカルバジン群を比較する形で行われた。その結果、全生存期間(OS)の中央値は、イピリムマブ併用群が11.2カ月、ダカルバジン群が9.1カ月で、併用群の生存期間が有意に延長していた(図4)。
(全生存期間:OS)

1年生存率は、イピリムマブ併用群が47.3%で、ダカルバジン群が36.3%だった。「BRAF阻害薬のような大差はつきませんでしたが、ダカルバジン療法に比べ、明らかによい成績を残していました。また、イピリムマブ併用群の奏効期間は19.3カ月で、ダカルバジン群の8.1カ月を大きく上回っていました。いったん効いた人には長期間効いているのが、イピリムマブの特徴なのでしょう」
特殊な作用メカニズムを持つ薬だけに、副作用も変わっている。免疫系が自分の正常組織を攻撃してしまうことで腸炎、皮膚炎、肝炎、神経炎、甲状腺の機能低下などの自己免疫疾患が起こることがある。
世界で初めて日本で承認された 期待の抗PD-1抗体薬
今年7月、世界に先駆けて日本で承認されたオプジーボもやはり免疫療法薬である。「リンパ球にはPD-1という受容体があり、がん細胞にはPD-L1があります。PD-1にPD-L1が結合すると、リンパ球の攻撃力は低下してしまいます。オプジーボはPD-1の抗体で、体内に入るとPD-1と結合することで、リンパ球の攻撃力低下を防ぎます。結果的に、がんに対する治療効果が発揮されるのです」
オプジーボに関しては、国内で臨床試験が行われた。ダカルバジンによる治療を行い、効果がなくなった人を対象にした試験だが、それでも奏効率は22.9%だった。
「ダカルバジンの奏効率が10%程度であることを考えると、やはりよく効いたと言えます」
副作用は、イピリムマブと同じで、自己免疫疾患が起こることがある。
メラノーマの個別化医療が 日本でもいよいよ始まる
メラノーマの治療薬として新しく登場してきた薬剤を紹介してきた。この中で、現在日本で使用できるのは、オプジーボだけだが、そう遠くない将来、新たな治療薬が加わる見通しだという。
「ベムラフェニブに関しては、国内の臨床試験が終了し、すでに申請されている段階です。早ければ年内に承認されるかもしれません。イピリムマブも国内の臨床試験が終了しています。これらの薬が使えるようになると、日本でもメラノーマの治療が大きく変わることになります」
米国ではベムラフェニブ、ダブラフェニブ、トラメチニブともに、BRAF遺伝子が変異しているかどうかを調べるコンパニオン診断薬もセットで承認しており、遺伝子変異している患者のみで使用される薬剤だ。日本でも当然、BRAF遺伝子変異陽性が適応条件となり、今後メラノーマの治療を行うに当たっては、遺伝子変異の有無を調べることは必須となってくるだろう。
「急激に進歩し始めたメラノーマの薬物治療ですが、第3のBRAF阻害薬と呼ばれる薬や、新しいMEK阻害薬など、すでに臨床試験の始まっている薬もあります」
今後、これらが登場してくると、個別化医療はさらに前進することになるだろう。