大規模ゲノムスクリーニング 産学連携「SCRUM-Japan」が発進

監修●吉野孝之 国立がん研究センター東病院消化管内科科長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2015年7月
更新:2015年9月


産学連携の遺伝子スクリーニング事業が進行中

KRAS、NRAS、BRAFと次から次へとがんに関与する遺伝子が明らかになる中、「変異が見つかるまで遺伝子を1つずつ検査していくとなると、変異にたどり着くまでに時間もコストもかかりすぎます。1度に多数の遺伝子異常を調べられる次世代シーケンサーといった新たな解析手法が求められます」と吉野さん。

こうした状況の中、2015年3月、日本初の産学連携した全国がんゲノムスクリーニングプロジェクト「SCRUM-Japan」が始動した。国立がん研究センターと全国の医療機関、および製薬企業とが連携して実施するプロジェクトで、①全国規模でがん遺伝子異常をスクリーニングし、希少な遺伝子異常を持つ患者さんを見つけて、有効な治療薬を届けること、②その手法として、複数の遺伝子異常が同時に調べられるマルチプレックス(多重化)診断薬を臨床応用すること、を目的とした(図1)。

これはもともと、吉野さんが中心となり、14年2月より開始していた大規模な遺伝子スクリーニングプロジェクト「GI-SCREEN-Japan」と、同じく肺がん分野での遺伝子スクリーニングプロジェクト「LC-SCRUM-Japan」を統合したもの。「GI-SCREEN-Japan」では、当初は大腸がんを対象にKRAS、NRAS、BRAF、PI3KCAのがん遺伝子変異を対象としていたが、今年4月には、消化器がん(大腸、胃、食道、小腸、虫垂、肛門管、消化管原発神経内分泌がん)に広げられた。登録している患者数も続々と増えており、「GI-SCREEN-Japan」では14年10月31日までに597人が登録され、現時点では900人を超えている(図2)。参加施設は全国で18施設。

図1 SCRUM-Japanの概要
図2 「GI-SCREEN-Japan」の患者登録数

プロジェクトの流れとしては、参加する医療機関は、同意が得られた患者さんに対してがん遺伝子異常のスクリーニング検査を実施。検査結果をもとに、担当医は患者さんを有効だと考えられる治療薬の臨床試験などに導くなどの適切な判断を下す。

また、検査結果は「SCRUM-Japan」運営主体である国立がん研究センター東病院のもとに集められ、診療情報と共に一元的にデータベース化して管理され、参加企業は、このデータベースを活用し、国立がん研究センターと協力して新しい診断・治療法の開発を推進��ていく。なお、参加企業は、スクリーニングの実施には関与せず、また提供されるデータベースには患者さんを特定するような個人情報は含まれていない(図3)。

図3 「SCRUM-Japan」の大まかな流れ

同プロジェクトを通じて既に30人以上が臨床試験に入っており、「有効だと考えられる薬が患者さんに投与されているという素地は作っている」と吉野さんは話す。

測定には、世界に先駆けて143種類の遺伝子検査ができる最新のマルチプレックス遺伝子診断薬(Oncomine Cancer Research Panel: OCP)を使用。このOCPを用いた大規模スクリーニングは、NCI(米国国立がん研究所)でも今年5月より開始しているという。今回解析手法として採用した最新のマルチプレックス診断薬について、「がんに関与する遺伝子変異、融合、増幅を一気に検出することができる」とのこと。このマルチプレックス診断薬の臨床現場での実用化も、同プロジェクトを通して進めていく考えだ。

製薬企業との協働がうまくいったわけ

「SCRUM-Japan」として再スタートをした「GI-SCREEN-Japan」だが、目標症例数は「LC-SCRUM-Japan」と合わせて4,500例。実施予定期間は15年2月から17年3月31日まで。

このプロジェクトは、前出の通り、製薬企業と協働していることも大きな特徴で、4月末現在で12社が参加している。各社は17年3月までに9,000万円の資金を提供する。

吉野さんは、「日本では初めての産学の取り組みです。製薬会社がなぜ賛同したかというと、彼らと我々の目指す方向が一致したからです。遺伝子情報を集めるだけではなく、患者さんに目が向き、新薬の開発を目指しているということです。我々のプロジェクトにはどういう治療を行って、効果はどうだったのかといった臨床情報も集積して、3カ月に1度、全例で調査をしてデータをアップデートしています。企業もそういった情報を知りたいと考えており、その点でも意味のあるプロジェクトとして、目指す方向が一致したのだと思います」

次世代シーケンサーの承認も見据えて

今後のプロジェクトの展望を聞いた。「もっとがん種を拡充したいですね。今は肺と消化器だけですが、乳がんや胆道がん、膵がん、希少がんなどまで広げることを近い目標としています。そして、臨床試験につなげるということもあります。遺伝子異常が分かるのがゴールではなく、その先に、有効な治療薬を患者さんに届けることが最終目標です」

さらに、将来的には1度に多数の遺伝子異常を調べられる次世代シーケンサーの承認も見据えているという。

「初めてのことで、審査基準など明確になっておらず不透明な部分も多いのですが、今、我々にできることとして、データの蓄積と有効性を積み重ねるしかありません。関連する学会が束になって取り組まなければならないでしょう。世論が味方についてくれるかも大きな要素です。法整備も必要でしょうし、どのようにきめ細かくプロセスを作っていくかを考えています」

個別化医療の動きは、産学連携プロジェクトの始動でさらに加速しそうだ。

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