在宅・緩和チームとの連携で〝チーム血液〟の充実化図る

監修●近藤咲子 慶應義塾大学病院看護部病棟師長(血液内科)
取材・文●伊波達也
発行:2014年5月
更新:2020年1月


在宅医療が困難視される理由

「血液がんの患者さんの在宅医療が難しいのは、血液の専門医が高度な治療を行った際に、病状の変化が早いときがあり、特殊な対応が必要だというイメージが定着して、在宅医療の先生方が受け入れに二の足を踏むケースが多いのです。

患者さんご本人やご家族も在宅医療は無理だと思っていることも多いです。実際、輸血は在宅医療では一番のネックになっているかもしれません。

例えば、輸血は大きな病院でなければ、あらかじめ日赤に予約をして血液を調達しておく必要があります。もし輸血前に患者さんがお亡くなりになると、その分が医療者側の持ち出しになってしまうといったコスト的な面もあります。

また輸血は必ずしも安全なものではないと言えます。例えば、輸血量を最小限にしたり、病院では週2回輸血するところを在宅では週1回でいけるかどうか。あるいは輸血時だけ病院で行うなど、いろんな方法を組み合わせなければならない場合もあり、その患者さんの容態や希望に応じて、血液内科の先生と在宅医の先生がきちんと話し合う必要があります」

〝主治医2人制〟も

血液がんの終末期の患者さんの場合は、在宅のみならず、ホスピスも受け入れてくれないという。輸血以外にも、QOL(生活の質)を維持するための緩和的な意味での抗がん薬治療が必要になったりするためだ。

在宅では〝主治医2人制〟も大事になってくる。近藤さんが指摘したように、専門医と在宅医の2人の主治医同士が意思の疎通を図り、連携していく。「もし終末期であれば、患者さんやご家族に悔いが残らないように、タイミングよくお帰ししなければなりません。それはとても難しく、慎重に行うためには多くのスタッフの協力体制が不可欠なのです」

住居環境も重要な判断材料

自宅の住居環境を見て判断することも重要だ。「おうちに受け入れ態勢ができているかどうかです。家の作りや間取り、バリアフリーになっているかどうか。例えば、廊下や部屋の中を車いすは通るかなどをケアマネージャーさんに確認してもらったり、要件を満たしていない場合に、公費で改造できるかどうかなども相談します」

日常生活を送るには、人のサポートも必要だ。「家族構成や家族間の関係性はどうなのか。親子は仲が悪いが、近所にいる姪っ子さんがよく面倒見てくれるとか、友人などが頻繁に通ってくれるとか協力態勢も様々です。最近では独居の人もますます増えていますので、どのようなサポート態勢がとれるのかも重要なのです」

このように、1人の患者さんが在宅で、支障なく療養してもらうためには、検討を要する課題が山積なのだ。

研修コースを立ち上げる

そこで、いくつかの在宅医療成功事例も経験し、報告している近藤さんたちは、「造血器の在宅医療・Cancer survivor 長期フォローアップ研修コース」というものを立ち上げ、今年で2年目を迎えている。

研修では、様々な地域での血液がんの在宅医療を引き受けられる知識を身に着けること、在宅に患者さんをお願いする施設が必要な知識を身に着けるためのカリキュラムが充実している。

医療従事者間での相互理解を深める

2014年1月18~19日の2日間にわたり実施した2回目の研修では、「Cancer survivor 長期フォローアップ研修コース」と「在宅医療研修コース」を1日ずつ行った。

研修の中身は、血液がんの専門医、リハビリテーション医師、緩和ケア医師、看護師、在宅医、訪問看護ステーション担当者、などが以下のようなテーマで講義に当たる。

〈治療時、経過観察時における重要項目〉
・造血器腫瘍とリハビリテーション
・造血器腫瘍のピアサポート
・造血器腫瘍治療後の非腫瘍性合併症
・造血器腫瘍治療後の2次性発癌など

〈在宅医療において必要な項目〉
・血液疾患の在宅医療・地域連携概論
・血液疾患における社会福祉制度と療養支援の現状など

〈病院医療従事者向け〉
・地域多職種連携による在宅医療(訪問診療について)
・地域多職種連携による在宅医療(訪問看護について)など

――を受講する。

そして最後に症例検討会を行って修了となる。わずか2日間ながら充実したカリキュラムにより、参加者同士の相互理解が深まるようになっている。受講者は医師とコメディカルを含め40~50人。「これによって在宅医療の門戸が少しでも広がればいいです」と近藤さんは話す。

悔いのない在宅療養をめざす

「来年以降はどのような形で研修コースを実施していくかは、いろいろと課題も出てくるのではないかと思います。大切なことは個々の患者さんにおいて、病状も価値観も死生観も違う中で、いかに後悔のない在宅療養をしていただくかです。幸いにして在宅医療を実践されている先生方は、非常にモチベーションの高い方たちが多いですから、この研修をはじめ、様々な形で私たちが働きかけていけば、きっと患者さんを受け入れてくれる先生方(施設)は増えていくと思っています」

現状では、在宅医療を決めても、そのまま家での療養を全うして亡くなる患者さんは29.5%というデータもある。近藤さんたちのような積極的かつ地道な活動により、さらなる超高齢化社会を迎えるにあたり、血液がんのみならず、在宅医療全体の理想的なモデルケースが生まれることを期待したい。

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