在宅看護研究センター 利用者のニーズに沿った訪問看護サービスを提供してくれる「開業ナース」

取材・文:守田直樹
発行:2007年5月
更新:2013年9月

優しさだけではない、ナースの仕事

写真:センターでは献身的なサポート体制が整えられている
センターでは献身的なサポート体制が整えられている

大高さんは、本に名前が出ていた倉戸みどりさんに連絡。翌日には、すぐに倉戸さんが手配してくれた民間の緊急搬送車で病院をあとにする。その際、父親はバンザイを繰り返したという。

在宅での倉戸さんのケアも想像以上にすばらしかった。

「痰の吸引を病院だとすぐに機械でやりますが、倉戸さんは時間をかけてまず蒸しタオルで胸を温め、痰がどこにあるのかをさぐり、それをゆっくり上のほうに持っていき、自力で出せるようにしてくれるんです」

自宅に帰ってちょうど1週間後、父親は息を引き取った。

「うちの場合はすべてが理想的な特殊なケースかもしれません。最終的には80万円くらいかかりましたが、これ以上長くなると金額的にも身体的にも苦しくなったと思います。でも、病院の個室も1日3万円だったので、父が稼いだお金は全部使い切ってもらってかまわないという覚悟はしていました」

そばで話を聞いていた大高さんの夫・誠一さんは、2004年に脳梗塞で倒れ、「あと2日」と言われながら奇跡的に生還した。

「ぼくは実の親父の死に目に会えなかったから、本当に『看取らせてもらった』という感じです。お義父さんが倒れたときは『大高くん、あんただけだよ、わかってくれるのは』とか言われ、手をとりあってホロホロ泣いたりもしました。お金には代えられない、これからのぼくの心の支えになると思います」

大高さんが読んだ著書『その時は家で』(日本看護協会出版会)には、妻を村松さんに看取られた永六輔さんのこんな文章も寄せられている。

(優しい言葉をかけられて、優しく言葉を受け止められる人がいてくれたら、それで病気が楽になったり、よくなったりすることってあるじゃないですか、本当は。看護婦さんがやろうとしている技術とか、何時にどうするとかは、それ、習えば僕だって出来ますから。そういうふうにしてくれるんだもん、村松さんのところは〉

心も体も弱っているからこそ、看護師の優しさが胸にしみる。ただ、優しさだけですまないのがナースの仕事の深遠さだ。

在宅療養をしたいが、家族に負担をかけられない

写真:中西真理さん

「開業ナース」に憧れ、現在も活躍中の中西真理さん

「開業ナース」に憧れ、仕事を始めて4年目の中西真理さんは、最初の長時間看護で打ちのめされたという。

「代表の村松はよく『黒子になりなさい』と言うんですが、これが本当にむずかしいんです。こちらはよかれと思って��家族の負担を少しでも減らそうと一生懸命やるんですが、家族にはできるだけ自分たちが見てあげたいという思いがあります。最初の長時間看護のとき、自分が前に出すぎてしまい、奥さんから『もう来なくていい』と言われてしまいました」

今、訪問看護を行っている患者のKさんの場合も、献身的に夫の看護をする妻をどうサポートすればいいのか、中西さんは苦悩しつつ通っている。

「昨日も一睡もせず看病していらっしゃるので、私が行ったときぐらい休んでくれるといいなと思っても、一生懸命いっしょにケアされる。それを止めるわけにはいかないし、うまく流れのなかで休めるサポート体制をつくりたいんですが……」

今のところ、Kさん宅へは週に2~3回、通常の医療保険の訪問看護で行っている。しかし最大限で120分の訪問看護では中西さんも十分なケアができているとは思えない。

「このまま家でいいですか?」

と、Kさんに在宅療養を続けていいか確認すると、奥さんのほうから、

「最後まで家にいられるんですか」

と、まず驚きの声があがった。

Kさんはしばらく黙っていたが、ぽつりと言った。

「むずかしいですね……」

自分自身は家に居続けたいが、妻の体のことなどを考えると決断できない。ほとんどの患者が「家族に負担をかけたくない」という気持ちを持っている。

危機的状況に陥っている訪問看護ステーション

写真:勉強中の中西さん
センター内のルームで勉強中の中西さん

在宅医療を進めるためには、もっと受け皿が必要だ。中西さんは、がん患者がもっと療養場所などについて気軽に質問ができる相談所のようなものの必要性を痛感している。

「がんの専門病院などには相談室のようなものができていますが、普通の総合病院で手術してそのまま退院なさった方は相談に行くところがありません。地域ごとにそういうものがあれば、ステーションなどにつなげてもらって、もっと『がん難民』と呼ばれるような人を減らすことができると思うんです」

中西さんは高知県出身。高知女子大学の大学院がん看護CNSコース(専門看護師)でがんを専門に2年ほど学んできた。

「私のふるさと高知県などには24時間いつでも対応してくれる訪問看護ステーションがほとんどなく、必死でやっているところに大きな負担がかかっている状況です。個人のボランティア的な努力で成り立っていて、いい看護師がいても辞めて行かざるを得ないんです」

昨春の診療報酬の改定で入院病棟の看護師を増やすと報酬が高くなることになったため、訪問看護ステーションが危機的状況におちいっている。全国の約1割のステーションが集中する東京都内の休廃業は、2005年度は44カ所だったのに2006年度にはほぼ倍の81カ所にのぼった。都市部に集中する、地域偏在も解決の糸口すら見えない。

医療者との垣根をなくす「在宅医療展示室」

写真:在宅生活をイメージした看護は利用者に喜ばれている
在宅生活をイメージした看護は利用者に喜ばれている

1人でも多くの人たちに実際の在宅生活をイメージしてもらおうと村松さんらの発案で、日本赤十字社医療センター(渋谷区広尾)の協力を得て外来棟の一角に「在宅医療展示室」を設置している。その空間は、8畳間の成人コーナーと4畳半の小児コーナーの2間からなり、介護ベッドや吸引機、ポータブルトイレなどを実際に置き、購入やレンタルした場合の値段も掲示されている。公開は週3日で、月曜日と木曜日の12時半から3時までは「開業ナース」たちが交代で説明にあたっている。

あるうららかな午後、1組の母娘が病院窓口に行く途中でふと足を止め、中西さんにこう尋ねた。

「ここは何をやっているところですか」

「在宅療養をイメージしやすくするための展示室ですが、どなたか介護が必要な方がいらっしゃいますか」

そこには医療者と患者の垣根はなく、まるで旧知のように会話が弾んでいた。

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