ホルモン療法の耐性を分子標的薬で補う

監修●向井博文 国立がん研究センター東病院乳腺・腫瘍内科医長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2014年10月
更新:2015年1月


開発が相次ぐ分子標的薬

ホルモン療法耐性を克服しようという分子標的薬は次々に開発が進んでいる。アフィニトールはmTORに作用してがん細胞増殖のシグナルをブロック(遮断)するが、Srcという部分に作用するSrc阻害薬スプリセルも注目されている。第Ⅲ相臨床試験が進行中だ。第Ⅱ相試験の結果が報告がされている。

「Srcは膜型ERなどと複合体を形成するとホルモン療法耐性にかかわってくることがわかってきました。アロマターゼ阻害薬にスプリセルを加えると、どちらか片方よりも効果がありました」

向井さんは、臨床試験前の基礎研究の大切さを強調した。

「迂回路が出てくるのをmTORでブロックするか、Srcでブロックするかの違いです。信号の流れを理解して、どこでブロックするのが効率的かということで新薬開発はしのぎを削っています。その信号の流れは様々な基礎研究でわかってきたことです。まず構造が理解できないとそれをターゲットとする薬はできません」

スプリセル=一般名ダサチニブ

「ブレークスルー・ドラッグ」 2つの乳がん治療薬

米国で新薬の審査を行う米国食品医薬品局(FDA)では、2012年に制定された「FDA安全性及び革新法」に基づいて「ブレークスルー・ドラッグ」をノミネートした。全疾患にわたり、20余りが指定されているが、乳がんのホルモン療法耐性に作用する薬が2つ入っている。

1つは、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬の分子標的薬entinostat(エンチノスタット、一般名)だ。DNAの染色体構造の変化によるがん細胞増殖を防ぐ働きをもつ。

「遺伝子のある部分に作用することによって、がん細胞が増殖することを阻害する薬です。臨床試験では、全生存期間で対照群が19カ月だったのに対して28カ月と、非常に良い結果を出しています。それを基に大規模研究が進行中です」

図5 細胞周期とpalbociclib(パルボシクリブ)の作用機序模式図

そして、注目されるのが分子標的薬palbociclib(パルボシクリブ、一般名)という新薬だ。「この薬の治験に、我々は開発の初期段階から関与しています。この薬剤はCDK4/6阻害薬といい、細胞が増殖する周期(セルサイクル)に着目したものです」

がん細胞の細胞周期を次のフェーズ(局面)に進めないことで、がんの増殖を止めようという作戦だ。1980年代にサイク��ンというタンパクが細胞周期に応じて変動することが発見された。ホルモン受容体陽性の乳がんでは、G1からSに行くところでサイクリンと結合するタンパクの過剰発現がみられるので、そこをブロックする(図5)。

臨床試験では良い成績が出ている(図6)。

図6 palbociclib(パルボシクリブ)の臨床試験結果(無増悪生存期間)

再発乳がんがターゲットだが、将来的には再発防止の補助療法としての使用も計画されている。

「ホルモン療法薬耐性の機序が徐々にわかってきて、それに即した様々な分子標的薬が開発されてきました。有望な薬剤のグローバルな臨床試験に期待がかかっています」

フェマーラ=一般名レトロゾール

ますます進むホルモン療法と分子標的薬の併用

ホルモン療法と分子標的薬の併用療法の将来について向井さんは話す。

「これから開発がさらに進みます。しかし、それはがん細胞との知恵比べとも言えます。シグナルの経路をブロックしても、がん細胞がそれに対応して効かなくなる。人間も知恵を絞る。ブロックが効かない理由を探る。別な薬で別な経路をブロックする……。今後は再発した場合にそこを調べる研究をする流れです。さらに体の変化に応じた新たな薬の開発、手段の創出がなされていくことでしょう」

患者さんにとって福音だ。

「医学の進歩でこれまで考えられなかった薬剤が出てきています。長く、そして少ない副作用で効きます。上手にがんと共存できるようになってきたということです。

少しでも薬でうまくつないでいけば新たな治療手段も出てきます。ぜひ前向きにいろんな形でがんとの共存を図るように考えて欲しいですね。とくにpalbociclib(パルボシクリブ、一般名)は国内でも多数の施設で臨床試験が行われています。期待されている薬剤なので、臨床試験に参加するのもいいかもしれません」

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