新薬ラッシュ!去勢抵抗性前立腺がんはどう治療していくべきか
抗アンドロゲン薬の第2世代「イクスタンジ」
イクスタンジの効果(全生存期間)

前立腺がん細胞にはアンドロゲン受容体があり、そこにアンドロゲンが結合すると、増殖が促進される。イクスタンジは、アンドロゲン受容体の強力な拮抗薬である。
「従来の抗アンドロゲン薬は、アンドロゲンが受容体に結合するのをブロックする薬でした。イクスタンジはそれを進化させた薬で、細胞の中でも作用します。受容体にアンドロゲンが結合すると、受容体が核内に移行し、そこでDNAに結合して、がん細胞の増殖が始まります。イクスタンジは、アンドロゲンが受容体に結合するのをブロックするのに加え、受容体が核に移動するのも、またDNAと結合するのも阻害するとされています。このような新しい作用を持つことから、第2世代の抗アンドロゲン薬と言われています」
すでに化学療法を受け、それが効かなくなった前立腺がんの患者さんを対象に、イクスタンジ群とプラセボ群の比較試験が行われている。その結果、全生存期間中央値は、イクスタンジ群が18.4カ月、プラセボ群が13.6カ月だった(表4)。この薬に関しても、化学療法の後だけでなく、化学療法の前に使用しても生存期間を延長することが、臨床試験で確かめられている。それにより、どちらでも使用することが可能だ。
「海外の臨床試験では副作用はほとんどないと言われていたのですが、日本人では倦怠感を訴える人がかなりいます。それから、ごく稀にですが、けいれんを起こすことがあるとされています」
タキソテールの後でも効果がある「ジェブタナ」
ジェブタナの効果(全生存期間)

ジェブタナはタキソテールと同じタキサン系の抗がん薬で、類似薬である。すでにタキソテールによる治療を受けた人を対象に、臨床��験が行われている。アメリカで従来2次化学療法として使用されていた*ノバントロンとの比較試験だが、全生存期間中央値は、「ジェブタナ+プレドニゾン群」が15.1カ月、「ノバントロン+プレドニゾン群」が12.7カ月だった(表5)。
「タキソテールで治療し、それが効かなくなった場合、従来はもう効果的な化学療法はありませんでした。タキソテール後に効く薬はないかと探していく中で、見つかったのがこの薬です」
タキソテールは長く使っていると、副作用として末梢神経障害によるしびれが出てくることがある。そのため、効果があるにもかかわらず治療を継続できなくなることもあるという。このような患者さんにとっても、ジェブタナは治療の選択肢の1つになると考えられている。
「ジェブタナの副作用で注意すべきなのは骨髄抑制です。日本人の臨床試験では使用したほぼ全員にグレード3以上の好中球減少が起き、約半数が発熱を起こしました。命に関わることもある副作用なので、治療する施設には休日を含めいつでも対応できる態勢が整っている必要があります。また、少なくとも初回は入院で行うべき治療だと思います」
*ノバントロン=一般名ミトキサントロン(前立腺がんに対しては国内未承認)
3つの薬をどのように使うか エビデンスはまだない

図7 去勢抵抗性前立腺がんに対する新規薬剤の選択
新しい薬が登場して、去勢抵抗性前立腺がんの治療選択肢は増えた。中心となるのはタキソテールで、タキソテールの前にザイティガとイクスタンジが使用可能。タキソテール後には、ザイティガ、イクスタンジ、ジェブタナが使用可能である(表6)。これらの使い分けや使う時期について、エビデンス(科学的根拠)はまだない。そこで、新しい薬を選択する際の考え方について、赤倉さんは次のように提案する(図7)。
ザイティガはアンドロゲンの産生を抑制し、イクスタンジはアンドロゲン受容体の働きを阻害する。そこで、血清テストステロン値が去勢域でも20~50ng/dLと割と高めの場合や、副腎皮質刺激ホルモンが高値の場合は、アンドロゲンの影響があると考え、ザイティガを選択する。逆に、テストステロン値が低い場合や、副腎皮質刺激ホルモン値が低い場合には、イクスタンジを選択するのである。
タキソテールやジェブタナは、切れ味のよい抗がん薬なので、症状がある場合や、PSAが急上昇した場合には、これらの薬を早めに使用する。
「新しい3種類の薬はいずれも高額なので、その使用に当たっては、コストについても十分に考慮することが必要です。無駄な治療を行わないためにも、それぞれの薬がどのような場合に効果的なのかを明らかにしていく必要があります」
患者さんにとって治療選択肢が増えたことほど喜ばしいことはない。今後、こうした薬をどのように使っていくのが効果的なのか、臨床試験などを通して明らかになっていくことを期待したい。
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