閉経前乳がん患者さんには、リスクに応じたホルモン療法が重要
どのような患者に LH-RHアゴニスト製剤を加えるべきか
ホルモン療法のガイドライン

閉経前の患者さんに対するタモキシフェンの投与期間は、5年が標準とされている。
「2年投与と5年投与を比較したところ、5年のほうがよかったのです。5年と10年を比較した試験では、10年のほうが再発を抑える効果が高いことが明らかになっています。ただし長く使用すれば、副作用の問題も出てくるので、標準治療は5年となっています。再発リスクが高い場合には、5年追加も勧められる、ということです」
5年あるいは10年のタモキシフェン服用に加え、LH-RHアゴニスト製剤が使われることもある。ただし、どのような人に加えればよいのか、はっきりした指針はなく、乳がんの薬物療法ガイドラインでも、推奨グレードはC1「タモキシフェンにLH-RHアゴニストの併用は行ってもよい」と明記されており、実際には再発リスクが比較的高く、若い患者さんに対しては加えるのが一般的だった(表4)。
そうした中、昨年(2014年)末に、どういった患者さんに対してタモキシフェンにLH-RHアゴニスト製剤を加えたほうがいいのかを示唆する、大規模臨床試験(SOFT試験)の結果が発表された。
中高リスクでは卵巣機能抑制療法を併用したほうがいい
「SOFT試験は、閉経前のホルモン受容体陽性乳がんの患者さん約3,000人を対象にし、タモキシフェンだけ投与した群、タモキシフェンと卵巣機能抑制療法を併用した群、*エキセメスタン(アロマターゼ阻害薬)と卵巣機能抑制療法を併用した群という3群に分け、それぞれ5年間治療して、再発予防効果を調べています」
卵巣機能抑制療法では、Gn-RHアゴニスト製剤の5年投与(LH-RHアゴニスト製剤と同様に、脳下垂体に作用して卵巣機能を抑制する)、卵巣摘出術、卵巣への放射線照射のいずれかを行った。
その結果、「タモキシフェン単独群」と「タモキシフェン+卵巣機能抑制療法群」を比較すると、5年無病生存率(DFS)は、前者が84.7%、後者が86.6% だった(図5)。タモキシフェンに卵巣機能抑制療法を併用することでの無病生存率の改善は、ごくわずかであったという結果だった。
この試験には、術後に化学療法を受けた患者さん(中間~高リスク)も、化学��法を受けなかった患者さん(低リスク)も含まれている。そこでSOFT試験では、術後の化学療法の有無別の解析も行われた。
その結果、術後に化学療法を受けた中間~高リスクの患者さんでは、5年無再発率(RFS)は、「タモキシフェン単独群」では78.0%、「タモキシフェン+卵巣機能抑制療法併用群」では82.5%、「エキセメスタン+卵巣機能抑制療法併用群」では85.7%という結果になった(図6)。
「中高リスクの人に限ると、卵巣機能抑制療法を併用することで、再発予防効果がはっきりと現れることがわかりました。また、統計学的に有意な差ではありませんが、タモキシフェンを併用するより、エキセメスタンを併用するほうが、無再発率は高くなっています。卵巣機能抑制を行うと、閉経したのと同じ状態になりますから、タモキシフェンよりアロマターゼ阻害薬のほうが、再発予防効果があったのでしょう」
またこの差は、35歳未満の患者さんに限って解析すると、さらに大きくなることがわかった(図7)。
卵巣機能抑制療法の効果(無病生存率)

エキセメスタン+卵巣機能抑制療法の効果(無再発率)

エキセメスタン+卵巣機能抑制療法の効果(無再発率)

*エキセメスタン=商品名アロマシンなど
低リスクではタモキシフェン単独で十分
一方、化学療法を受けなかった低リスクの人だけを対象にした解析も行われている。その結果は、タモキシフェン単独でも、卵巣機能抑制療法を併用しても、再発には差がないというものだった。
「SOFT試験の結果から言えることがいくつかあります。1つは、ほとんどの閉経前乳がん患者さんの術後ホルモン療法は、タモキシフェン単独で十分だということ。『漠然とLH-RHアゴニスト製剤を併用するのは止めましょう』ということです。もう1つは、中間リスクや高リスクの患者さんで、術後化学療法後に生理が戻った場合には、LH-RHアゴニスト製剤などで卵巣機能抑制を行い、それにタモキシフェンかエキセメスタンを併用するとよい可能性があるということです(図8)」
ただし、エキセメスタンは、現行の保険制度では、閉経前の患者さんに使用が認められていない薬剤である。そのため閉経前の人には、LH-RHアゴニスト製剤といった卵巣機能抑制療法にタモキシフェンを併用することになる。
術後のホルモン療法は再発を抑えるという意味でも重要な治療法だ。とはいえ、少ないながらも副作用はあるため、リスクに応じた使い分けが、今後ますます重要になってくると言えるだろう。

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