去勢抵抗性前立腺がんの治療選択 個別化・適正化で患者の利益が求められる
16年に新薬の期待
新薬情報もある。
「16年中に骨転移のある前立腺がんに対して*Xofigo(ゾーフィゴ:塩化ラジウム-223)が承認される予定です。放射性元素の注射薬です。まず骨転移のある去勢抵抗性前立腺がんで承認されて、乳がんや肺がんにも適応が拡大されるでしょう。カルシウムやストロンチウムと同族元素です。骨の活動が高いところに集積してα(アルファ)線を出して、がんをやっつけます」
欧米ではすでに使用さており、日本でも2015年4月に承認申請された。
「放射性元素の注射薬です。痛みを軽減する効果だけではなく、延命の効果もあります。転移が骨だけであるなど、症例を選んで使えば恩恵を受けられる患者さんはいます」
*Xofigo(ゾーフィゴ)=一般名radium Ra 223(塩化ラジウム-223)
医師と患者のコミュニケーションが大事
去勢抵抗性になった場合も含め、大切なのは、治療のタイミングだ。
「前立腺がんはホルモン療法がよく効く性質があるので、発見時に進行がんであっても社会復帰できます。骨転移して脊髄圧迫で歩けないという患者さんでも初回ホルモン療法で歩けるようになります」
社会復帰しても、PSAの値をチェックし続けなければならない。
「経過には波があります。ホルモン薬が効かなくなると治療を変えるのですが、どのタイミングで薬を変えるのかはケースバイケースです。医師と患者さんのコミュニケーションが大切になります」
個別化・適正化の治療を
赤倉さんはホルモン療法薬を含めた医療の在り方について話す。
「費用を別にすればホルモン療法は患者さんにとって楽です。多くの患者さんはホルモン療法を選ぶでしょう。『ぜひ抗がん薬を』と言う人はあまりいません。当院では抗がん薬治療の場合、1クール目は入院で行います。副作用を見るためです。それに対してホルモン療法は入院の必要はありません。これまでにもホルモン療法をしてきた方が多いので、治療薬を新しいものに替えるだけという延長線上で考えられます」
一方で、考えなければならないのが、国としての医療費高騰だ。多くのがん種で医療費が減っているのに対し、前立腺がんは人口の高齢化に伴い増加を続けている。新薬は非常��高価だ。
例えば、前記ホルモン療法薬では月間30万円ほどかかる。ジェブタナでは100万円ほどだ。患者さんの負担は健康保険や高額療養費制度を使えば数万円だが、国や健康保険組合がそれ以外を負担している。ちなみにタキソテールは特許が切れており、ジェネリック(後発医薬品)もある。1回の投与で4万円程度だという。
「難しい問題です。日本の医学界でも議論になっていますが、多くの医師は新薬を使うと言っています。しかし、これでは医療経済が破綻してしまいます。
例えば、日本ではザイティガとイクスタンジの両方を使えますが、欧州では保険ではどちらか一方しか使えないというルールを設けている国もあります。新薬といって飛びついても、人生の中でベネフィット(利益)を受ける人も、受けない人もいます。しっかりと診断を付けて、適正な治療選択をすべきです」
国では、2016年から費用対効果の考え方を薬価に持ち込むことを決めている。
ホルモン薬は高額であることを意識
赤倉さんに前立腺がんの治療の在り方について聞いた。
「早期発見のがんも増えましたが、進行転移がんが減ったかというとそうとも言えません。PSA値が数百になってから受診する人もいます。早期で発見し、手術をすれば前立腺がんは治ります。いきなり骨転移では本人が負担する医療費も大変です。
求められているのは、患者さんの個別化と治療の適正化です。それは、医師が判断しなければなりません。その薬、治療法が適した人にだけ使うということです。Aという治療が効かないからBに、それも効かないからCにというように機械的な治療選択をしては無駄な治療につながり、患者さんにも医療経済にとってもマイナスです。
これまでの薬剤の適応は『前立腺がん』という全体的なものでしたが、最近は『去勢抵抗性前立腺がん』などに絞られています。転移があるのか、どのような治療を経たのかなどを考慮して適応を限定することで、患者さんも医療経済にも負担の少ない治療が広まるでしょう」
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