新薬登場でここまで変わった! 去勢抵抗性前立腺がん薬物療法の治療戦略

監修●小坂威雄 慶應義塾大学医学部泌尿器科学教室講師
取材・文●柄川昭彦
発行:2017年1月
更新:2017年1月


ジェブタナもG-CSF製剤の予防投与で 安心して使用可能

では、イクスタンジとザイティガはどのように使い分けるのか。治療選択の上で、ステロイド薬を使えるかどうかが、1つ重要になってくるという。

「ザイティガはステロイド薬を併用する必要があるので、糖尿病などがある人は避けたほうがいいでしょう。心不全や肝機能障害も出やすく、心臓や肝臓に問題がある人にも使いにくい薬です。一方、イクスタンジでは、全身倦怠感や食欲不振が出やすいことが知られています。海外の臨床試験では、骨転移だけでなく内臓への転移もある場合は、イクスタンジを選択したほうが良いことを示唆する結果となっています」

一方、もう1つ新たな治療薬として加わったジェブタナだが、副作用が強く、とくに発熱性好中球(こうちゅうきゅう)減少症が起きやすいこともあり、日本では導入が遅れていた。しかし、持続型の顆粒球(かりゅうきゅう)コロニー刺激因子(G-CSF)製剤を予防的に投与することで、安全に使用できるようになっているという。また、同じタキサン系抗がん薬であるタキソテールと比べて、脱毛、末梢神経障害が起こる頻度も少なく、程度も軽い。

「医療者も含めて、ジェブタナの副作用について心配している人は多いですが、きちんと対処することで、今は安全に投与できるようになっています。投与時期を逸せずに、全身状態(PS)が保たれているときに使うべき薬だと考えます」

タキソテールが再び 効くようになる治療法

去勢抵抗性前立腺がんに対する化学療法は、まずタキソテールが使われる。タキソテールは治療開始当初は効いていても、耐性化によっていずれ効かなくなってしまう。ところが、小坂さんらの研究により、抗肝炎ウイルス薬のリバビリンを併用することで、タキソテールが再び効くようになることが明らかになってきた。

「数千種類の既存薬の中から探したのですが、その結果見つかったのがリバビリンでした。抗がん薬が効かなくなったがん細胞の遺伝子発現プロファイルを、抗がん薬が効く遺伝子発現プロファイルに変えることで、抗がん薬が効かないがんから、効くがんへと巻き戻すことができたのではないかと考えています。このようなことから、リプログラミング療法と名付けました」

試験管レベルの試験を経て、動物実験��行われたが、タキソテールにリバビリンを併用した治療の効果は明らかだった(写真4)。その後、5人の患者さんを対象にした臨床研究が行われた。いずれもタキソテールが効かなくなった進行前立腺がんの患者で、タキソテールとリバビリンを併用した治療が行われた。その結果、5例中2例でPSA値が低下し、そのうちの1例では、骨盤の骨転移が消失するという効果が現れている(写真5)。有害事象についても、とくに目立ったものは現れていないという。

「臨床研究でよい結果が出たので、薬事申請を目指して2016年から医師主導の治験がスタートしています。すでにエントリーが終了し、治療が進められている段階です。リバビリンを併用する治療が、どのような人に効くのかも明らかにできればよいと考えています」

去勢抵抗性前立腺がんに対しては新しい薬が登場してきたとはいえ、薬の種類は限られ、残念ながら効果も限定的である。リプログラミング療法により、タキソテールが効かなくなった場合に治療選択肢が1つ増えることには大きな意味があると同時に、薬剤耐性を克服する新たなアプローチと言える。また、新薬に比べタキソテールは価格が低いので、それを再び使えるようにする治療は、医療経済的にも優れていると考えられる。進行中の臨床試験でよい結果が出ることを期待したい。

リバビリン=商品名コペガス/レベトールカプセル

写真4 リプログラミング療法の効果(動物実験)

タキソテールにリバビリンを併用することで、明らかに腫瘍が縮小している様子が分かる(マウスを用いた実験)
写真5 リプログラミング療法の効果

タキソテールが効かなくなった80代の患者さん。タキソテールにリバビリンを併用したリプログラミング療法を開始したところ、PSA値が低下し、骨盤の骨転移巣が消失した(赤線で囲んだ領域)
1 2

同じカテゴリーの最新記事