センチネルリンパ節転移陽性乳がんへの新しい治療対応

監修●長嶋 健 千葉大学臓器制御外科学講座診療教授/附属病院乳腺・甲状腺外科科長/ブレストセンター長
取材・文●伊波達也
発行:2017年9月
更新:2017年9月


整合性を臨床試験で検証

長嶋さんらは、これらの臨床試験の結果との整合性を、独自に同科の患者による臨床試験により検証した。

そして、その結果を2017年7月に開催された第25回日本乳癌学会学術集会において『センチネルリンパ節転移陽性乳癌に対する非郭清・非照射の適応について』という演題で発表した。

「2000年から2016年の間のセンチネルリンパ節生検を実施した全症例1,922例が対象です(平均年齢52.3歳/平均腫瘍径19.1mm/観察期間中央値78カ月(4~134カ月))。その中で転移はあったが郭清を省略したという症例が75例ありました。この中で転移なし、微小転移あり、マクロ転移で郭清に切り替えたものの3群で比較すると、転移がない症例が有意差をもって再発率は低かったのですが、他の2つは有意差が出ませんでした(表3)。したがって郭清することがあまりメリットにはならないのではということがこの結果からうかがえました。日本人においてもグローバル試験と比較して整合性があったということを示したのです」

次に検証したのが乳房温存して放射線照射に入った38例についてだった。

「再発したのは3例で、再発率は7.9%です。3例は、胸膜と鎖骨上リンパ節転移、乳房内再発と腋窩リンパ節転移、肺転移でした(表4)。また、それに全摘出だったのですが、マクロ転移が3つあったため、念のため照射したという1例を加えると再発率は7.7%となり、微小転移の症例、術後に照射が入った症例は転移があっても再発率が変わらないということが我々のデータでも証明されたということです」

放射線照射も省略するケースについても検証

さらに、リンパ節郭清も放射線照射も省略するケースについて発表した。

「その症例は39例です。再発は先と同様で3例でしたので再発率は8.1%と先の7.9%とほぼ同じということです。なおかつ、再発箇所が肺2例、肺と骨が1例でした。たまたまなのかもしれませんが、腋窩リンパ節転移は0でした(表5)。その結果、再発率の上昇はなく所属リンパ節への転移がなかったということになります。現時点でのデータで言えるのはここまでです���まだフォローアップ期間が短いため、長期予後を見ていかなければ結論は出せないと思います」

今後は、5年後、10年後といった節目で検証結果を報告していきたいと考えていると長嶋さんは話す。

「ただし、私の見解としては、術前の診断で転移が認められず、後から見つかるような微小転移であれば、たとえリンパ節転移が見つかったとしても郭清も照射も省略できるはずだと考えています。また、そういう患者さんはかなりいるのではないかとも考えています」

治療戦略を立てるためにもセンチネルリンパ節生検は必要

現時点では、乳がん治療の症例数の多い主力病院では、センチネルリンパ節生検により微小転移があった場合、さらに2個以内のマクロ転移を認めた場合でもリンパ節郭清を省略するケースが増えている。

施設によっては、術前の検査による評価を精密にして、転移が認められなければ、術中のセンチネルリンパ節生検は省略しているところもあるという。

「郭清を省略するのであれば、最初からセンチネルリンパ節生検も省略しようという考え方です。ただし、センチネルリンパ節生検を術中に行っておくことによって病理の結果が出て、治療戦略が立てられますから、行うべきだと私は考えています」

長期予後検証の結果いかんで放射線照射の省略にも注目が

一方、放射線照射の省略については、まだ大方の施設で懐疑的だという。しかし、長嶋さんらの今後の長期予後検証の結果いかんでは、放射線照射の省略についても注目されそうだ。

何といっても、リンパ節郭清省略では、感覚異常、リンパ浮腫といった後遺症が避けられ、放射線照射省略では、通院回数を減らせる、色素沈着や皮膚が固くなるなどの副作用が防げるという点で、患者にとってQOLが高くなるのは間違いなく、大変喜ばしいことだ。

今後はさらに、リンパ節転移をした患者の予後についても検証していくという。多施設共同でリンパ節転移をした患者の症例を登録し、集まったデータからサブ解析を行い何らかの報告をしていきたいと長嶋さんは話す。また、今後考えられそうな臨床試験としては、リンパ節転移陽性患者に対する放射線照射のあり、なしの比較試験だ。

さらに、臨床現場において悩ましいと長嶋さんが説明するのが、術前化学療法を実施後の治療の選択だという。

「例えば、診断時にあったリンパ節転移が、術前化学療法により消失した場合に、術中のセンチネルリンパ節生検では微小転移があったといったケースです。他にもまだまだ、わからないことだらけですから、1つひとつ検証していなければなりません」

術後化学内分泌療法をきちんと受けることが大前提

そして、治療を省略すべきかどうかは慎重な判断が必要だと長嶋さん。

「リンパ節郭清や放射線照射を省略するためには、術後化学内分泌療法をきちんと受けていただくことが大前提です。そして、治療を省略できる可能性を評価するには、術前に精密な検査を受けてもらい、転移の有無を正確に評価した上で、術中のセンチネルリンパ節生検を加え、適応できるかどうかを決めていきます。患者さんは、治療を省略することでのメリット・デメリット、QOL、再発率などについて、医師からきちんと情報開示してもらい、納得した上で決めてもらうことが大切です」と述べた。

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