新薬続出で選択肢が広がった去勢抵抗性前立腺がん(CRPC) 「どの薬をどのタイミングで使うか」が見えてきた!

監修●赤倉功一郎 JCHO東京新宿メディカルセンター副院長・泌尿器科部長
取材・文●菊池亜希子
発行:2018年1月
更新:2018年1月


骨転移ありのCRPCに光射す

2014年の3つの新薬に加えて、2016年、骨転移のあるCRPCに対して、放射線内用薬のゾーフィゴが承認された。ゾーフィゴは放射性元素ラジウムの注射薬。ラジウムは、カルシウムやストロンチウムと同族元素で、骨代謝の活性が高いところに集まり、そこでα(アルファ)線を出す。つまり、骨代謝の激しい骨転移部分に集まってα線を出し、がん細胞を叩くわけだ。α線は、ストロンチウムが出すβ(ベータ)線より強力、かつ、飛程距離が細胞10個分以下と短いのが特徴。飛んでいく距離が短い分、正常細胞をあまり傷つけないという利点もある。

もともと骨転移の痛み抑制のためにストロンチウムの注射薬は使われてきたが、ストロンチウムに生命予後延長を示すデータはなく、単に痛み対策でしかなかった。しかし、ラジウムは生命予後に関する臨床試験で、生存期間延長ありとの結果が出たのだ。

ただし、ラジウムは、カルシウムやストロンチウムと同様、骨にしか作用しないため、肝転移や局所前立腺がんには、ゾーフィゴは全く効かない。よって、肝臓や肺に転移がある場合は、たとえ骨転移があっても適応外となる。とはいえ、それまでストロンチウム注射で痛み対策をしながら、放射線外照射という方法しかなかった骨転移のあるCRPCに、新たな光が射したことは間違いない。

それでは、骨転移のあるCRPC治療がゾーフィゴの登場によって飛躍的に進化したかというと、そうとも言い切れないようだ。

「ゾーフィゴは、なぜかPSA(前立腺特異抗原)値を下げないのです。他の治療法ではPSA値の動きを指標に、その効果をリアルタイムで見極めることができますが、ゾーフィゴはPSA値に現れないので、効いているかどうかがわかりづらい。4週間に1回の注射を6回で終了し、その後、画像で確かめるしか判断の方法がないわけです。画像に明らかな変化が現れれば効果を感じられますが、そうでない場合は、効いたかどうかわからないことも。それがゾーフィゴの難しさかもしれません」

ゾーフィゴと他の治療法との併用ができるようになると治療の幅は広がるのだろうが、最近の臨床試験でゾーフィゴとザイティガを併用したところ、「骨折が3倍に増える」ことがわかり、臨床試験自体が中断されたそうだ。いま、ゾーフィゴとイクスタンジ併用の臨床試験が進められているという。

商品名ゾーフィゴ=一般名塩化ラジウム223

最初からLH-RH製剤にザイティガ併用の可能性

そもそもCRPCになるまで待つのではなく、LH-RH製剤など従来のホルモン療法を行う際に、ドセタキセルやザイティガを併用したほうがいいのではないか、という臨床試験も行われてきた。

「がん細胞内に性質の違う細胞があるならば、それが増える前に、最初の段階で叩いてしまったほうがいいのではないか、という考え方です。従来のホルモン療法にドセタキセルを併用すると成績がよくなるという結果が、すでに海外の臨床試験では出ていて、予後の悪そうな患者さんには、初回ホルモン療法時からドセタキセルを併用することが世界的には主流になりつつあります。しかし、残念ながら、この併用に関しては、日本では保険承認されていません。

もう1つは、従来のホルモン療法であるLH-RH製剤に、新規ホルモン療法のザイティガを併用する方法。こちらも、併用のほうがLH-RH製剤単独より優れているとの結果が、すでにアメリカの臨床腫瘍学会(ASCO)で出ていて、日本では現在、保険適用を申請中。近い将来、併用できるようになるでしょう。イクスタンジも、少し遅れるかもしれませんが、同じように最初から併用したほうがいいという動きになってくると思います」

この先、もし様々な併用療法についての検証がさらに進み、全生存率(OS)で単独療法より優れているというデータが積み上げられていけば、いつか、LH-RH製剤とドセタキセルとザイティガの3剤併用は? というような検証も始まるかもしれない、と赤倉さんは今後の展望を語った。

ちなみに、LH-RH製剤を飛ばして、最初から新規ホルモン薬のザイティガのみ、という選択肢はないのだろうか?

「アンドロゲン分泌を遮断するよう脳に指令を出すLH-RH製剤なしで、ザイティガ単独にしてしまうと、いずれテストステロンが増えることがわかっています。人間の体は、足りなくなると作ろうとする。アンドロゲンがブロックされると、体は作ろうとしてしまうわけです。だから、脳の指令に働きかけるLH-RH製剤あってこそのホルモン療法なのです」

数々の治療法が出そろったものの、使用順や併用法が確立しているとはまだ言えない分、患者本人も知識を持って、今の自分に必要な治療はどれかを考えていくことが必要なのかもしれない。その上で、医師と十分に相談しながら、その都度、症状に合わせて治療法を選んでいくことが大切と言えそうだ。

1 2

同じカテゴリーの最新記事