ホルモン療法の副作用対策 抗がん薬とは異なる副作用が発現

監修●湯浅 健 がん研有明病院泌尿器科がん分子標的薬治療・化学療法担当副部長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2017年1月
更新:2017年1月


ホットフラッシュはすぐに出る

副作用の発現時期を見ると、ホットフラッシュ(ほてり、発汗など)は投与開始早々から現れる。その他の症状である骨粗鬆(しょう)症、脂肪が増えて太る、性欲がなくなる、やる気がなくなり、仕事などの能率が落ちる、といったものは1~2カ月経つと徐々に現れてくる。また、ほとんどの患者で体重が増えてくる。

「骨粗鬆症への対策としては、ボナロンなど経口ビスホスホネート製剤を使うか、抗RANKL抗体のプラリアという注射薬を半年に1回注射します。このように骨への副作用は対策を立てやすいのですが、ほかの体重増加や物覚えなどは対策が難しいのが実情です。また、今後は高脂血症や糖尿病も増えてくると予測されます。物覚えは認知症とも絡んできますが、定期的に外来で接していても、患者さんの受け答えからは物覚えが悪くなったかどうかは、ほぼわかりません」(湯浅さん)

ボナロン=一般名アレンドロン酸ナトリウム プラリア=一般名デノスマブ

間欠療法で副作用軽減も

副作用を軽減する方法として間欠療法がある。ホルモン治療開始後にPSA(前立腺特異抗原)値が下がった状態で安定した場合には、数カ月間、服薬を中止し、PSA値が再度上がってきたらホルモン治療を再開するというものだ。休薬期間中は男性ホルモンが産生されるため副作用は発現しない。

休薬による治療効果への影響について、湯浅さんは「ホルモン薬を継続して使用し続けると耐性ができるので、オフにする時期を設けることで耐性ができずに効果的なのではと言われましたが、そのエビデンス(科学的根拠)はまだ示されていません」としている。

一方で、患者からの相談で、性欲の低下などに悩んでいるケースでは適応することもあるという。

副作用を納得して治療

「ホルモン療法は抗がん薬より受け入れられやすいのですが、副作用が出ます。欧米では骨粗鬆症が問題視されてきましたが、生活習慣が欧米化した日本でも、今後は高脂血症や糖尿病も含め増加すると思われます。その一例として、ほとんどの患者さんで体重が増えてズボンのサイズが合わなくなります。やる気や物覚えなど判断が難しい項目もあります。そのようなことがあり得ることを納得して治療を受けることが大切です」と湯浅さんは話す。

「診療ガイドライン」でみる副作用対策

昨年(2016年)10月に、「前立腺がん診療ガイドライン」(日本泌尿器科学会編集)が4年ぶりに改訂されたが、同ガイドラインの「ホルモン療法に伴う有害事象と対策」を紐解いてみると。

ガイドラインではまず、ホルモン療法の有害事象として「骨塩量の低下、骨折リスクの上昇」をあげ、12カ月間で骨密度は2~5%減少し、骨折のリスクは1.5~1.8倍になることを示している。対応としては、湯浅さんの解説にあったように、経口ビスホスホネート製剤や抗RANKL薬を使用することがリスクを低下させるとして、推奨グレードBとして示されている。

次に推奨グレードC1として、「体脂肪増加等の代謝異常が発生するため、適宜検査を行い適切に介入すること」があげられている。

以下、同ガイドラインの解説に即して概観すると、性的欲求の低下と勃起不全はホルモン療法を受ける患者の90%以上に発症するといわれるが、「6カ月のホルモン療法は18カ月と比較して性機能に対する影響が有意に少ないことが報告されている」と述べるにとどまっている。

ホットフラッシュは約80%にみられ、治療薬としては「シプロテロン、メドロキシプロゲステロン、低用量ガバペンチンの有用性が報告されている」としているが、「シプロテロンについては治療に影響を与える可能性がある」ことが付け加えられている。

シプロテロンは抗アンドロゲン薬で、メドロキシプロゲステロンは女性ホルモンの働きを制御することでこれらの症状を改善させるホルモン薬、ガバペンチンは抗てんかん薬。一方で、メドロキシプロゲステロン、ガバペンチンについては、前立腺がんやホットフラッシュへの保険適用はない。

疲労は約40%でみられ、筋肉量の低下、体脂肪の増加、うつ状態などが原因とされている。「有酸素運動やレジスタンス(負荷抵抗)運動が有効との報告がある」としている。レジスタンス運動とは、ストレッチ、腹筋、腕立て伏せなどの筋肉に負荷をかける運動を指す。

女性化乳房は約20%にみられ、抗アンドロゲン薬単独療法では60~70%で起こる。対応としては抗エストロゲン薬のノルバデックスと乳房への放射線照射に効果が見られるとているが、いずれも前立腺がんへの使用は保険適用されていない。

心疾患系への影響については、「ホルモン療法が心疾患による死亡を増加させるエビデンスはないものの、リスク因子である脂質代謝異常、体脂肪の増加等に影響を及ぼすことが知られているため、適切な介入を行うべき」と述べられている。

さらに、認知機能については「現時点では認知機能に及ぼす影響は明らかでない」とするにとどまっている。

湯浅さんは「前立腺がんの増殖因子として男性ホルモンが重要な役割を果たしており、したがって、この男性ホルモンの影響を除去するホルモン治療は非常に有効な治療法の1つです。副作用についても理解した上で治療を継続していただくことが肝要と思います」と締めくくっている。

シプロテロン=商品名アンドロクール メドロキシプロゲステロン=商品名プロベラ、ヒスロン ガバペンチン=商品名ガバペン ノルバデックス=一般名タモキシフェン

1 2

同じカテゴリーの最新記事