ホットフラッシュ、関節痛、うつに対処し、治療を完遂する方法 ホルモン療法中のつらい副作用は、こうして乗り切る!

監修:蒔田益次郎 がん研有明病院 乳腺センター外科副部長
取材・文:池内加寿子
発行:2012年7月
更新:2014年1月

ビタミンEで関節痛が軽快する

「アロマターゼ阻害剤の服用中、起床時に手がこわばるという訴えが目立っています。握力が弱くなり、ペットボトルの蓋が開けられなくなったり、バネ指()になることもあります。肩や膝の痛みは、立ち上がるとき、動作をするときに強く感じられるようです。エストロゲンの減少によって関節軟骨の弾力が失われ、関節を動かす腱に浮腫が起こるためと考えられますが、発症メカニズムは分かっていません。ビタミンDの欠乏、タキソール()の使用歴、肥満、年齢なども関与しているようです」

関節痛の治療法として、蒔田さんは末梢の血流を改善するビタミンEに期待を寄せる。

「以前、抗がん剤の副作用で指先のしびれと手足の冷えを訴えた患者さんに、ビタミンEを処方したところ、症状が軽快しました。この経験をヒントに、アロマターゼ阻害剤服用中に関節痛を発症した患者さんに、ビタミンEの内服薬(50㎎)を1日3回処方した結果、28人中22人(78.6%)は症状が改善しました」

その後も、手のこわばり(18人)を訴えた人の約4割、膝肩痛(21人)を訴えた人の5割以上が、ビタミンEの内服で改善している。

「ただ、ビタミンEは血液をサラサラにするので、出血性の病気がある人は注意が必要です」

関節の痛みが強いときは鎮痛薬( セレコックス()、モービック()など)を使う。ただし、胃炎などの副作用に注意して、長期の服用は避ける。膝や肩なら、貼るタイプの消炎鎮痛薬(モーラステープなど)を使ってもよい。

「血流を促す温浴や、膝や腰の筋肉を伸ばすストレッチやエクササイズでかなり楽になります(図6、図7)。同じ姿勢を長時間続けないこと、肥満を防ぐことも大切です。なお、もともと変形性膝関節痛があるような場合は、整形外科を受診してください」

[図6 胸の前で両手を合わせて押し合う運動]
図6 胸の前で両手を合わせて押し合う運動

ゆっくり無理せず、痛くなる直前で止める

[図7 ボールを握る運動]
図7 ボールを握る運動

毎日少しずつ続けることが大切。そうすると、このようにボールを握れるようになってくる

バネ指=指を曲げたり伸ばすときに、関節がカクカクとひっかかり、スムーズに動かせない状態
タキソール=一般名パクリタキセル セレコックス=一般名セレコキシブ モービック=一般名メロキシカム

毎日の管理で骨折を予防

日本人女性がアロマターゼ阻害剤服用中は、骨密度が毎年2%程度減少するといわれる。

「骨折はホルモン療法中止の原因になるだけでなく、寝たきりにもつながるので、予防が大切です。欧米のガイドラインに沿って1~2年ごとに骨密度を測定し、カルシウムを1日800㎎~1200㎎摂取することが望ましいですね。骨密度が、成人の平均値の70%以下になると骨粗鬆症と診断され、骨粗鬆症治療薬のビスホスホネートによる治療が必要です」

もちろん、カルシウムを取り込みやすい食事の工夫も必要だ(図8)。ビタミンDは、腸からのカルシウムの吸収を助ける役割を果たす。皮膚の組織中にある成分が日光にあたるとビタミンDに変化するので、1日30分ほど木陰などで過ごすのもお勧めだ。

イライラ、うつは早期の対応を

乳がんの手術後は、精神的につらい思いをすることが多いうえに、ホルモン療法の影響で、イライラやうつなどの不調が起こることがある。

「抗うつ薬や抗不安薬で症状が改善することがあります。また、自分の感情や不安感を誰かに話して、受け止めてもらうだけで、気持ちが楽になることがあります。病状についての不安は主治医に相談しましょう」

同じ病気の患者さんと、お互いの体験を話し共感し合うことで元気を取り戻す人も多い。図1のようなセルフチェックを参考に、気になる症状があるときは、遠慮せずに医師に伝え、早めに対処することが大切だ。


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