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骨粗鬆症など、骨関連事象の対処法と生活上の留意点 乳がんホルモン療法の副作用と対策
耐えがたい手や膝の痛み
ホルモン療法の副作用は薬によって違う。
LH-RHアゴニスト製剤やタモキシフェンで多くみられるのは、更年期障害の症状。ホットフラッシュと呼ばれるほてり・のぼせの症状、倦怠感、うつ症状など、あらわれる症状は多彩だ。
また、タモキシフェンの場合は、頻度は極めて少ないが血栓症、肺塞栓、子宮体がんが発生しやすくなるとのデータがある。 アロマターゼ阻害剤でも更年期障害のような症状が出ることがあるが、タモキシフェンと比べれば頻度は低い。それより注意しないといけないのが骨への影響だ。
同じようにエストロゲンを抑える働きをするタモキシフェンとアロマターゼ阻害剤だが、骨に対する作用はまるっきり違っていて、タモキシフェンは骨に対してはエストロゲン様の働きをして、保護的に作用するので、むしろ骨量を増やす効果がある。これに対してアロマターゼ阻害剤は、体内のエストロゲンを強力に抑制するため、骨代謝に悪影響を与え、骨量を減少させて骨粗鬆症のリスクを上昇させるし、関節症状も起こしやすくなる。
関節症状で多いのは「朝の手のこわばり」。ドアノブを回すこともできない、お皿も洗えない、裁縫もできない、パソコンのキー操作もしにくい、など訴える症状は軽くはない。一見するとリウマチ症状にも似ているが、薬を中止すると治るので、アロマターゼ阻害剤が原因であるのは明らかだ。
膝の関節が痛むケースも多い。矢形さんにはこんな経験がある。
外来に入ってくるなり、「先生、私を殺すつもりですか!」と厳しい表情で問い詰める患者さんがいた。アロマターゼ阻害剤を長期投与していたのだが、急に膝が痛み出して、歩けなくなったのだという。薬をタモキシフェンに変えたところ、膝の痛みは消え、ようやく患者さんに笑顔が戻ってきた。
「そういう副作用があると『自分の体に一体何をされたんだ』という思いになってしまうものです。患者さんは私たち医者を信じて、がんを治したいと治療してい��だけに、しっかりとしたケアが欠かせません」
ただ、関節症状の場合、薬の副作用とは別に、生活上で起こる変形性の膝関節症などもある。とくに手術後は患者さんの生活環境が大きく変わるだけに、さまざまな症状を起こす。薬の副作用によるものなのか、ほかに原因があるのかの鑑別も重要、と矢形さん。
「関節症状に対しては鎮痛剤を使ったりもしますが、鎮痛剤にも副作用があるので注意が必要です。また、生活環境を変えてみたり、漢方薬で症状がおさまることもあります。最初は関節の痛みが気になっていたが、アロマターゼ阻害剤をそのまま使っているうちに、何となくよくなっていった、という人も多く、関節症状に耐えられないからとアロマターゼ阻害剤の使用を中断する人は少数派です」
骨折→寝たきりで死の危険
より深刻なのは骨粗鬆症になる危険だろう。骨粗鬆症になると骨折しやすくなって、QOL(生活の質)を著しく低下させる。中でも高齢者の場合、骨粗鬆症になると大腿骨頸部(太股のつけ根部分)の骨折を起こしやすくなり、それが原因で寝たきりになるケースが少なくない。
わが国では、骨粗鬆症による大腿骨頸部骨折は年間に12万件を超えると推定され、そのうち約10パーセントは1年以内に死亡し、約30パーセントで日常生活動作能力(ADL)の低下がみられる、との報告もあるほどだ。
従来、骨粗鬆症は骨量(骨密度)を中心に判断されてきた。しかし、近年、骨粗鬆症についての定義が変わり、骨量のほかにも骨の構造や骨の代謝の状態など骨質を含めて判断されるようになり、既存骨折がある、骨折の家族歴(親が骨折したことがある)、喫煙や過度の飲酒(1日に日本酒2合相当以上が目安)などもリスクファクターに加えられるようになってきた。今後はアロマターゼ阻害剤の投与も、当然、リスクファクターとして加えられるべきだろう。
方法 | 測定部位 | 原理 | 検査時間 | 被曝線量 | 特徴 | |
---|---|---|---|---|---|---|
二重エックス線 吸収法(DXA) | 躯幹骨DXA | 腰椎/大腿骨/ 全身骨 | エックス線 ビーム | 5~10分 | 1~5mrem | 2種の異なるエネルギーのエックス線を照射し、骨と軟部組織の吸収率の差により骨密度を測定する。いずれの部位でも精度よく迅速に測定できる。骨密度測定の標準である |
末梢骨DXA | 橈骨/踵骨 | |||||
一重エックス線吸収法(SXA) | 橈骨/踵骨 | エックス線 ビーム | 5~15分 | 1mrem | 単一エネルギーのエックス線を照射し、組織の吸収率から測定する。軟部組織の薄い前腕・踵骨が適用になる。精度は高く、測定時間も短い | |
RA(MD) | 第二中手骨 | エックス線 写真 | 5~10分 | 5mrem | 厚さの異なるアルミニウム板と手を並べて通常のエックス線写真を撮影し、写真上のアルミニウムの光学的濃度を基準に骨密度を測定する。デジタル画像をコンピュータで解析する方法では測定精度が向上 | |
定量的CT測定法 | QCT | 腰椎 | エックス線 CT | 10分 | 50mrem | 3次元骨密度(mg/cm3)として算出する。海綿骨骨密度を選択的に測定できる。QCTでは、他の測定法と比べてエックス線被曝量が多い。感度は高いが精度が低い |
pQCT | 橈骨(脛骨) | 5~20分 | 5mrem | |||
定量的超音波測定法(QUS) | 踵骨 (脛骨/指骨) | 超音波 | 1~10分 | - | 超音波の伝播速度と減衰率により骨を評価する方法。骨密度を測定しているわけではない。エックス線を使用しないので、放射線被曝がなく、放射線管理区域以外でも使用可能。測定精度は低い |
「骨粗鬆症の診断は、若年成人の骨量の平均値を100パーセントとして、80パーセント以上の人は健康、70パーセント未満は骨粗鬆症と診断されます。また、70パーセント以上80パーセント未満で既存骨折などの危険因子がある場合も骨粗鬆症と診断されますが、既存骨折がなくてもアロマターゼ阻害剤を使っている場合は、骨粗鬆症と同様に扱っていいのではないかという考え方もあるので、その段階からご本人と話をして、骨粗鬆症の薬物治療を始めることもあります」
原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年改訂版)
Ⅰ脆弱性骨折(既存骨折)(注1)あり | ||
---|---|---|
Ⅱ脆弱性骨折(既存骨折)なし | ||
骨密度値(注2) | 脊椎エックス線像での骨粗鬆化(注3) | |
正常 | YAMの80%以上 | なし |
骨量減少 | YAMの70~80% | 疑いあり |
骨粗鬆症 | YAMの70%未満 | あり |
注1:脆弱性骨折(既存骨折):低骨量(骨密度がYAMの80%未満、あるいは脊椎エックス線像で骨粗鬆化がある場合)が原因で、軽微な外力によって発生した非外傷性骨折。骨折部位は脊椎、大腿骨頸部、橈骨遠位端、その他
注2:骨密度は原則として腰椎骨密度とする。ただし、高齢者において、脊椎変形などのために腰椎骨密度の測定が適当でないと判断される場合には大腿骨頸部骨密度とする。これらの測定が困難な場合は、橈骨、第2中手骨、踵骨の骨密度を用いる
注3:脊椎エックス線像での骨粗鬆化の評価は、従来の骨萎縮度判定基準を参考にして行う
脊椎エックス線像での骨粗鬆化 | 従来の骨萎縮度判定基準 |
---|---|
なし | 骨萎縮なし |
疑いあり | 骨萎縮度1度 |
あり | 骨萎縮度2度以上/td> |
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