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ホルモン療法の大家、アラン・モニエさん特別インタビュー 患者さんのQOLを第一に考えた乳がんホルモン療法
ハイリスクにはアロマターゼ阻害剤を
――タモキシフェンとアロマターゼ阻害剤は、どのように選択するのですか?
モニエ 現在、アメリカやヨーロッパでは、術後の補助化学療法のファーストラインとしては、閉経後の患者さんであれば、アロマターゼ阻害剤の単剤投与が一般的になっています。最初の3年間の再発率がとくに高いので、この時期に最も効果の高い薬を使うべきだというのが、最近の欧米の医師の考えです。
――タモキシフェンではなく、最初からアロマターゼ阻害剤を使うのですね。
モニエ タモキシフェンにも効果はあります。予後がいいなどと言われていますが、これは主にローリスクの患者さんを対象にした場合です。再発する可能性が高いハイリスクの患者さんは、最初からアロマターゼ阻害剤を使うべきなのは明らかです。
アロマターゼ阻害剤をファーストラインで使う場合以外に、タモキシフェンを2~3年使い、患者さんが閉経したらアロマターゼ阻害剤という方法があります。また、タモキシフェンを5年間行ってから、アロマターゼ阻害剤に切り替える方法もあります。アロマターゼ阻害剤は閉経するのを待って使われるのです。
――アロマターゼ阻害剤はあくまで閉経後の患者さんに使う薬なのですね。
モニエ 閉経前後の時期は、生理が止まったからといって、閉経しているとは限りません。アロマターゼ阻害剤は、生物学的な検査を行い、閉経していることが明らかになってから使うようにしています。
最近わかったことですが、閉経前の女性にアロマターゼ阻害剤を投与した場合、その強力な薬効によって排卵が誘発されるのです。したがって、アロマターゼ阻害剤を投与するときには、事前に閉経していることを検査で確かめる必要があるのです。
――閉経前の女性にアロマターゼ阻害剤を使うことはできないのですか。
モニエ 閉経前の患者さんには、LH-RHアゴニストなどを投与し、排卵の誘発をブロックしてからアロマターゼ阻害剤を使うようにします。(注1)
注1)このような使い方は、日本では保険で認められていないので、ご注意を

副作用が同じなら、治療効果の高い薬を選ぶ
――アロマターゼ阻害剤には、フェマーラ(一般名レトロゾール)、アリミデックス(一般名アナストロゾール)、アロマシン(一般名エキセメスタン)という3種類がありますが、副作用に差はあるのでしょうか。
モニエ 3種類ありますが、副作用に関しては、ほとんど同じプロファイルを示しています。いずれも治療可能な副作用です。したがって、3種類の薬からどれかを選ぶとしたら、副作用が同じなのだから、最も治療効果の高いものを選ぶべきだと考えています。
――治療効果の高いものを選ぶ際、何を判断基準にすればよいでしょう?
モニエ 3種類のアロマターゼ阻害剤について、お互いを直接比較する臨床試験はまだ行われていません。そこで、これまで行われているそれぞれの臨床試験などを参考にして、効果を比較することしかできません。
動物実験では、エストロゲンをブロックする作用について比較した研究があります。この作用については、フェマーラが最も高く、抑止率は99パーセントでした(図4参照)。ただし、エストロゲンを枯渇させる能力が、実際の治療において、ベネフィットに結びつくかどうかはわかりません。

そこで、さらに次のような実験が行われました。フェマーラを12週間投与してから、アリミッデックスにスイッチするグループと、反対にアリミデックスを12週間投与してから、フェマーラにスイッチするグループで比較したのです。
結果ははっきりしていました。フェマーラを先に使うと、その段階でエストロゲンは大幅に下がり、アリミデックスにスイッチすると、やや回復するという結果が出ました。アリミデックスを先に使った場合には、その段階でエストロゲンがまず下がり、フェマーラにスイッチするとさらに下がったのです(図5参照)。
こうした結果からも、フェマーラはエストロゲンを抑制する効果が、とくに優れていると考えることができます。

――臨床試験の結果はどうでしょうか。
モニエ 術前補助療法のセッティングで行われた試験で、フェマーラだけが、タモキシフェンより優れているという結果が出ています。腫瘍の大きさが縮小し、増殖しなかったという点で、画像検査によってタモキシフェンより優れていたことが証明されています。
残念なことに、アリミデックスとタモキシフェンの比較では、アリミデックスが優れているということは証明されなかったのです。
フェマーラとアリミデックスとの比較試験
――術後補助療法ではどうでしょう?

モニエ 現在、フェマーラとアリミデックスを直接比較する臨床試験が進行中です。12カ国の専門家と計4000人の患者が参加する大規模臨床試験です。この臨床試験の結果が出ると、有効性や安全性について、フェマーラとアリミデックスの実力が明らかになるでしょう。
現在の段階でわかっているのは、ハイリスクの患者さんで、リンパ節転移がある場合には、エビデンス(科学的根拠)的にはフェマーラが最も効くということです。ハイリスクの患者さんは、化学療法を受けてからフェマーラを使うと、再発率を26パーセント下げるという結果が出ています。
もう1つ、遠隔転移を起こす率が少ないのも、私がフェマーラを選ぶ理由です。乳がんの患者さんに遠隔転移が起きると、亡くなる率が高くなります。術後の遠隔転移を予防する割合が、アリミデックスの試験では7パーセントですが、フェマーラの試験では30パーセントもあったのです。
治療成績は全生存率をどれだけ改善するかで評価されますが、それ以前の問題として、患者さんの遠隔転移を防ぐことは、われわれ医師の責務だといえます。将来的には、全生存率を改善することも明らかになるだろうと思います。
――アロマターゼ阻害剤は閉経後の患者さんに使われるわけですが、患者数は増えていますね。
モニエ フランスではどんどん増えています。日本でも同じでしょう。65歳以上の患者さんの場合、術後の再発を予防できたのは、フェマーラで21パーセント、アリミデックスではわずか7パーセントだったというデータもあります。高齢者にはフェマーラがとくに効果が高いと言えるのです。
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