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ほてり・発汗、疲れ、めまい、頭痛、手術後の関節痛などに高い改善率 乳がんホルモン療法の副作用を漢方療法で改善する
雲の上を歩く浮遊感、めまい、頭痛
小島早苗さん(仮名)も漢方治療でホルモン療法による副作用を改善した1人である。
小島さんは04年4月、勤務先の大学の人間ドックで異状が発見された。同年6月、駒込病院で部分切除し、病理検査の結果、乳がんの粘液がんと診断された。同年7月、追加の部分手術を受け、術後は放射線治療(土日を除く毎日5週間。合計25回)を受け、その後、タスオミン(一般名タモキシフェン)を飲み続けている。
「私は15年ほど前に子宮内膜症でホルモン治療を受けたことがあります。そのときに嘔吐、めまい、極度の頭痛などの副作用で苦しんだ経験があります。そのため、術後のホルモン療法を受けることにかなり抵抗がありました。ですから、治療前に主治医と何度も話し合い、自分でもさまざまな医学文献を読みました。その上で04年9月からタスオミンを服用しました」と小島さん。
タスオミンを飲み始めて1週間後、めまい、吐き気、頭痛が始まった。主治医と相談しながらその後2週間服用を続けたが、同じ症状が続いたため、1度服用を中止した。その数日後、めまいなどは消えた。
しかし、小島さんは医学論文を読み、主治医と話し合った結果、再発率などのメリットを考えて、同年10月末、タスオミンの服用を再開した。しかし、再開して1週間後、今度は血圧が190/110と極端に上がり、階段を下りるときなどにふわふわとして、雲の上を歩いているような浮遊感、めまい、頭痛に見舞われた。そこで、主治医は「漢方の力を借りましょう」と言って、屠さんを紹介し、カルテを回してくれた。
漢方薬を飲んで2週間で症状改善
屠さんは、小島さんの顔色や表情、舌全体を見て、その症状の訴えに耳を傾けた。手首などで脈���みて、訴えた症状以外の全身状態について質問をした。そして、『証』と呼ばれる漢方診断を行った。その『証』に応じた漢方薬が処方された。
処方された漢方薬は、人参、当帰、黄耆、生姜、大棗、葛根、牡蠣、紅花など8種類ほどのキザミ生薬である。これらのキザミ生薬を入れた袋2週間分を漢方調剤薬局で入手した。それぞれの生薬の量は、日本で通常処方されている量よりもかなり多い。小島さんは、処方されて漢方薬の袋を土瓶に入れて毎日煎じて1日3回、食間に飲み始めた。
「飲み始めて2週間後、浮遊感やめまい、頭痛などが軽くなってきました。2週間後に外来で、新しい組み合わせの漢方薬を処方してもらいました。その漢方薬をさらに2週間飲み続けたところ、ほとんどの症状が改善されました。処方された漢方薬はかなり量が多かったですが、私は中国や香港、シンガポールに住んだ経験があり、そのとき、中国などでは漢方薬の量が多かったことを覚えていたので、あまり抵抗感はありませんでした」と小島さん。
現在、小島さんは、タスオミンと降圧剤、漢方薬の併用療法を続けている。漢方薬はマイコン煎じ器を購入して煎じるようにしたため、時間的な制約も少なくなったという。乳がんを発病した前以上に元気を取り戻し、働き続けている。
アロマターゼ阻害剤による副作用に対しても同じよう手順で漢方処方が行われ、改善効果が得られている。
清水春恵さん(仮名、50歳)は、アロマターゼ阻害剤を服用後2カ月頃から頭重感、五十肩、手のこわばり、関節痛、睡眠不良、便秘などの症状が現われた。小島さんと同様、戸井さんの紹介で屠さんの漢方治療を受けた。処方されたのは、甘草、ヨク苡仁(*)、牛膝、牡丹皮、人参、山梔子、杜仲など約7種類強。清水さんも2週間に1度、外来で漢方薬の処方を受けて、飲み続けた。「清水さんの場合、漢方治療を始めて2カ月ほどですべての症状が消えました」(屠さん)
*ヨクは草かんむりに意
治療の「突破口」を見つけ出すのがコツ
屠さんは中国で漢方医学の名医と称された父から漢方医学を学んだ。中国と日本で西洋医学も学び、消化器内科を専門とする。漢方医学と西洋医学の両方に精通した医師である。日本では約4年前から本格的に漢方治療を始めた。
乳がんのホルモン療法の副作用に対する漢方治療は、1年前から主に戸井さんから紹介された乳がん患者を中心に行っている。「西洋医学ではよい治療方法がなく、苦しんでいる患者さんが対象です。乳がんのホルモン療法の副作用に対する漢方治療は、これまで数10人に行っています」と屠さん。
屠さんが学ぶ、臨床で実践している漢方処方はすべて完全なテーラーメイドだ。この病名、症状にはこの漢方薬というパターン化したものはないという。屠さんによると、ホルモン療法の副作用は(1)ほてり、発汗(2)疲れやすい、元気がない(3)めまい、頭が痛い(4)手術後の関節痛などの4つのグループに分けられる。このほか、食欲不振、便秘、不眠などの症状も重なることが多い。
屠さんは、前述したような漢方診断と同時に治療の「突破口」を見つけ出して、そこから漢方治療に取り組むという。例えば、ほてりや発汗の副作用を訴える場合でも「便秘はあるか」「下痢はしやすいか」「睡眠は十分か」などさまざまな症状を聞き出す。そして、便秘を治すこと、睡眠を改善させることから患者さんの諸症状の治療に着手し、その次に、ほてりや発汗などの本丸と思われる症状の改善に取り組むこともある。無論、原則として、すべて、漢方薬で対処する。
「漢方診断は、あらゆる症状を聞いて行います。また、漢方治療で重要なのはどこから着手するかです。ホルモン療法の副作用の治療でも同じことです」(屠さん)
量の多い生薬を使って効果を上げる
屠さんの漢方治療はほとんど生薬によって行われる。処方される生薬の数は8~10数種類である。患者の状態に合わせて、1~2週間ごとにその種類も量も変えるのが原則だ。また、屠さんの処方する漢方薬は量が多いのが特徴だ。
「中国では日本で一般的に行われている漢方薬よりもその量はかなり多いです。薬局からも『量が多いようですが、この量で大丈夫でしょうか』という問い合わせがかなりあります。中国の漢方治療では昔から用いられてきた量です。また、漢方治療で処方される生薬は、日本の医療保険の適用となるキザミ漢方を用いています。ただし、漢方治療の途中で、簡便さ、飲みやすいという理由などで、漢方エキス剤に切り替えることもあります。症例によっては、エキス剤から初めて、生薬に切り替えることもあります。」(屠さん)
乳がんのホルモン療法に対する漢方治療の効果は、患者の訴えや感じ方などの主観によるところが多く、その治療成績を客観的な検査結果で表現することが難しいようだ。しかし、屠さんは次のような印象を抱いている。
「数10名の患者さんに漢方治療を行った段階では、ほてりや発汗の副作用の改善度が低かったのは1例だけです。疲れやすい・元気がない、めまい・頭が痛い、手術後の関節痛などの副作用の改善率はほぼ100パーセントです。乳がんのホルモン療法の副作用は、漢方治療でほぼ改善、軽減できると思います。延命効果も期待できると思います」(屠さん)
漢方薬の治療効果のメカニズムは、西洋医学的な視点、アプローチでは解き明かせないところが多い。漢方治療では複数の生薬を用いるため、それらの生薬の相互作用による治療効果も考えられる。乳がんのホルモン療法の副作用など、西洋医学ではよい治療法がない場合、漢方治療は患者の大きな希望となり、その治療効果と価値は十分にあるようだ。
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