ホルモン療法中は骨折リスクに注意! アロマターゼ阻害薬服用時の骨粗鬆症治療

監修●宗圓 聰 そうえん整形外科 骨粗鬆症・リウマチクリニック院長
取材・文●菊池亜希子
発行:2024年4月
更新:2024年4月


アロマターゼ阻害薬とSERMは同時服用しない

骨吸収を抑制する薬剤としてもう1つ、選択的エストロゲン受容体モジュレーターSERM(サーム)があります。

SERMは骨に対してエストロゲンと似た作用を持ち、エビスタ(一般名ラロキシフェン)とビビアント(同バセドキシフェン)の2種類。ただ、骨吸収抑制薬ながら、ビスホスホネート薬やプラリアに比べると作用が穏やかで骨密度上昇効果がさほど高くないことから、骨折リスクの高くない閉経後の女性に多く使われます。また、骨粗鬆症薬の中で唯一、「閉経後」に限定されている薬剤です。

「SERMは臓器によってエストロゲン受容体に抑制的に作用したり、促進的に作用したりする性質があります。エビスタもビビアントも骨に対してはエストロゲン作用を発揮するので骨吸収を抑制しますが、アロマターゼ阻害薬服用中のSERM併用は避けるのが妥当と乳癌診療ガイドラインに記されています」と宗圓さん。

―ATAC試験において、同様のSERMであるタモキシフェンとアナストロゾール(アロマターゼ阻害薬)の併用で有害事象の増加と乳癌再発抑制効果阻害の可能性が示されており、アロマターゼ阻害薬使用時のラロキシフェン併用は避けるのが妥当である。(乳癌診療ガイドライン2022年度版より)―

また、SERMは椎体骨折は抑制するものの、大腿骨近位部骨折は抑制できないとされているほどマイルドな薬剤。欧州では骨密度低下が見られ始めた閉経後1~2年、もしくは65歳未満の女性に使う方針を打ち出しているそうです。

「高齢かつ骨折リスクがある場合は、SERMでなく、より骨密度上昇効果の高いビスホスホネート薬かプラリアを選択するのが、現在の骨粗鬆症治療の考え方です」

悪性骨腫瘍、骨転移には禁忌の骨形成促進薬には注意を!

2019年にイベニティ(一般名ロモソズマブ)、2023年にはオスタバロ(同アバロパラチド)という2つの新薬が骨粗鬆症治療薬として承認されました。両方とも骨形成促進薬に分類され、骨吸収抑制薬より強い力で骨密度を上昇させます(表5)。

「原発性骨粗鬆症の��合、骨折リスクの非常に高い患者さんに対しては、まず骨形成促進薬で骨密度を速やかに上げて、その後、骨吸収抑制薬に移行するという考え方になってきました」と宗圓さんは説明します。

現在、骨形成促進薬として承認されている薬剤は、副甲状腺ホルモン製剤のテリパラチド(一般名)とオスタバロ、そして抗スクレロスチン抗体のイベニティの3薬。骨形成促進薬は、非常に骨密度が低い場合(-3.3SD以下など)、もしくは、椎体が複数骨折しているなど重症の骨粗鬆症に適応し、さらに、投与期間の制限もあります。テリパラチドは一生の間に2年間のみ、オスタバロは一生に18カ月まで、イベニティは連続投与が12回までと定められています。

「テリパラチドには骨肉腫の発生を促進したとのデータがあり、同様の機序を持つオスタバロとともに、悪性骨腫瘍、骨転移には禁忌です。よって重度骨折を伴わない骨量減少には適応しません」と宗圓さん。イベニティは機序が全く異なるのでそうした縛りはないものの、アロマターゼ阻害薬服用中の骨粗鬆症治療に対しての臨床試験は、現状、皆無です」

臨床試験がなくエビデンスがない以上、イベニティも、アロマターゼ阻害薬服用中の骨粗鬆症に対しては推奨できないことに変わりはないようです。そのイベニティに関して、宗圓さんは次のように言及しています。

「イベニティは骨形成促進薬に分類されますが、実は骨吸収を下げる作用も兼ね備えていて、今後、非常に期待できる薬です。ただ、12カ月で骨形成促進作用がなくなるため、月に1回の注射で連続投与は12回までと制限されています」

いずれにせよ、骨形成促進薬は、アロマターゼ阻害薬服用時の骨粗鬆症に対してのエビデンスが存在せず、現状、ほぼ処方されません。

SD(standard deviation)=国際的に使用されている骨密度を測る評価単位。Tスコアともいう。-2.5SD以下が骨粗鬆症と定義される

ビタミンDを定期的に測定して、日光を浴びよう

ホルモン療法、とくにアロマターゼ阻害薬服用時の骨粗鬆症治療薬を見てきましたが、「実は第1選択薬のプラリアも、第2選択薬のリクラストも、体内のビタミンDが不足していると、薬の効果が十分に発揮されません」と宗圓さん。1日のビタミンD必要摂取量は15-20μg(マイクログラム)。総じて不足している人が多いといいます。

「今はビタミンDも保険で測定可能です。その数値基準は30ナノグラム/mlが正常範囲です。とくにデノスマブやビスホスホネートの効果を十分に得ようとすると、33とか35ナノグラム/ml以上必要という報告があります。骨粗鬆症治療中は骨密度だけでなくビタミンDも測定して、不足しないよう注意しましょう」

最後に宗圓さんは、次のように述べました。

「いちばん簡単なビタミンD摂取方法は、日光浴です。1日に30分ほど木陰にいるだけで、1日に口から摂ると同等のビタミンDを摂取できます。また、踵落としやスクワットなどの運動を続けることで、緩やかではありますが骨密度の上昇が期待できます。お日さまを浴びながらのウォーキングがおすすめです」

がん治療中の骨粗鬆症治療は、薬剤選択の際に注意や禁忌もあるため、必ず、がん治療中であること、またはホルモン療法中であればその旨を、骨粗鬆症治療時に医師に伝えることが重要です。そして、がん治療後も元気に生きるために、骨粗鬆症を軽視せず、早めの治療開始を心がけましょう。

1 2

同じカテゴリーの最新記事