注目の樹状細胞ワクチン療法 カギを握るのは「WT1」
大きく道を開いた がんの抗原「WT1」

初期の樹状細胞ワクチンは、患者さん自身のがん組織を使用していたが、現実には新鮮ながん組織が入手できるケースは多くない。その場合には、人工的に作られたがん抗原「WT1ペプチド」が使われている(図1)。
「WT1は正常細胞にはあまり見られず、逆にがんに存在していると報告されているタンパク質です。大阪大学教授の杉山治夫さんの精力的な研究によって、WT1のどの部分ががん抗原として重要か明らかにされてきました。この部分を人工合成し樹状細胞ワクチンに使用することで、治療を受けることができる患者さんが大幅に増えました。人工がん抗原にはいろいろな種類がありますが、WT1は最も優れているといわれています。さらにこのWT1のどの部分の断片(ペプチド)を使うかも、有効性を期待する上で大きなカギとなります」
医薬品としての承認を目指し 進めてきたデータ解析
樹状細胞ワクチンが医薬品として承認されるには、有効性がしっかりとデザインされた治験で証明する必要があり、これまで治療を受けてきた患者さんのデータは、この上ない貴重な情報となる。そのため専門家のチームが組織され、過去のデータの解析を進めている。米満さんはその中心的存在だ。
最近、欧州の学術誌に掲載された成績は、その最新データだ。
「セレンクリニック東京」(東京都港区)で治療を受けた手術不能あるいは術後再発肺がん(非小細胞肺がん)の62症例で、樹状細胞ワクチン後の生存にどのような要因が影響するかを調べたところ、①貧血が軽度②3カ月目に効果(消失・縮小・進行停止)が現れた③WT1を使用した――という因子を持つ患者さんが延命しやすいことが示唆された。
「医薬品化には、治験で有効性を証明する必要があります。そのためには、どういう患者さんに効果があり、あるいは効きにくいのか、事前にある程度わかった上で、道筋をつけることが重要です。そういう意味でも、予後因子が明らかになってきたのは意義深いことです」
特定のWT1配列だから導けた有効性

この調査では、WT1ペプチドを使用した場合と使用しなかった場合に分け、その成績を比較したデータがある(図2)。
グラフでも明らかなように、WT1使用群で生存期間が有意に延長したことがわかる。
「WT1を使用した樹状細胞ワクチンの延命効果は、抗がん薬単独よりも優れている可能性があります。またグラフを見ると、最初は両群に差がなく、ある程度の期間がたってから差が開き始めています。これはワクチンが効果を示すときの典型的な生存曲線のパターンと考えられます」
ただし、このような結果が導けたのは、研究・臨床で実績のあるWT1ペプチドを用いているからこそではないか、と考えているという。

樹状細胞ワクチンの技術提供をしているテラ株式会社の全国の契約医療機関では、これまで累計で約7000例の症例実績がある(図3)。
この治療に関わる医師は、患者さんのHLAの型(白血球の血液型)によって効果が出やすいWT1ペプチドの配列を使い分け、いわば個別化医療ともいえる治療を行っている。その中で最も重要なのは「改変型A24拘束性(抗原)ペプチド」と呼ばれるものだ。
これは本来のWT1ペプチドの配列に変更を加え、より強力ながん免疫を誘導することができるようにした特許技術で、事実このペプチドだけに着目した解析でも生存率が改善していることが明らかになっている。
研究はさらに進み、別の有効なWT1ペプチドを順次導入することで、間もなくほとんどの日本人に適用できるところまできているという。

「WT1とひとくくりに言っても、配列が異なれば同じ治療効果が出るとは限りません。我々が医薬品を目指せるのも、杉山さんの研究をもとに有効な配列を用いて実績を積み重ねてきたからこそです。
最近WT1の名称が有名になってきたためか、『誰にでも適応できるWT1を使った樹状細胞療法』を標榜する医療機関を見ますが、どのWT 1の配列でどんな治療効果が出ているのか、見極めていただきたいです」
自由診療の枠の中でデータを積み重ねながら、樹状細胞ワクチン療法は着実に成果を上げてきている。研究グループの信州大学医学部附属病院では昨年「先進医療」となり、さらなる臨床データを集めようとしている。
「これまで、がん免疫療法が自由診療で行われていることに対し、批判的な意見を受けてきました。しかし、多くの患者さんの治療が行われてきたことで、こうした貴重な臨床データが得られつつあることも事実です。重要なことは、いつまでも自由診療で留まることなく、このような貴重な情報をもとにしっかりとした治験が実施されて有効性が明らかとなり、最終的に公的保険が適用されることで、多くの患者さんがこの治療の恩恵を受けられるようになることです」
米満さんの九州大学では、樹状細胞ワクチンの治験をスタートさせるために、研究者たちが日々研究を重ねている。臨床と研究の両面からがん治療の新しい時代が始まろうとしているといっても、決してオーバーではないだろう。
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