先進医療の結果次第で、大きく進展する可能性も! 進行・再発非小細胞肺がんに対するNKT細胞療法

監修●本橋新一郎 千葉大学大学院医学研究院免疫細胞医学教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2016年11月
更新:2016年11月


2012年からは先進医療として実施

臨床試験で良好な成績が得られたため、この治療は「非小細胞肺がんに対するNKT細胞を用いた免疫細胞治療」として、先進医療の形で臨床試験が行われることになった。

「2012年2月から2015年5月までの間に、35人の患者さんに登録してもらい、NKT細胞を用いた免疫療法を行ってきました。現在は、治療した患者さんを追跡している段階です。2017年8月に治療後2年間の追跡期間が終わるので、それからデータを解析します。2018年2月ごろには最終的な結果が出ると思います」

そこでも良い結果が出れば、さらにその先の臨床試験へと進むことになる。

「最終的には比較試験が必要になります。検討はこれからですが、比較試験を行うとすれば、恐らく1次化学療法後の2次治療として、標準治療として使われている抗がん薬との比較ということになるでしょう」

安全性については、現在までに得られているデータでは、問題となるような重篤な副作用は出ていないという。これもNKT細胞療法の優れた点と言えるだろう。

この治療を受けたいと希望する人もいるが、2015年に臨床試験の登録が終了した時点で、先進医療によるこの治療は終了しているという。次のステップに進んで、治療が再開されることが待ち望まれている。

この臨床試験とは別に、国立病院機構名古屋医療センターなどでは、非小細胞肺がんの手術後の再発予防として、NKT細胞療法を行う臨床試験を先進医療として進めている。対象となるのは、Ⅱ(II)~Ⅲ(III)A期で、手術をし、標準的な術後補助化学療法を行った患者である。NKT細胞療法を行う群と、行わない群に割り付け、比較試験が進められている。

「切除手術が行えても、残念ながら再発する人はある程度の割合でおられますので、10%でも20%でも再発率を改善できれば、大きな成果だと思います」

こちらも臨床試験の結果が待たれている。

iPS細胞を用いたNKT細胞療法の可能性

NKT細胞を使った治療は、さらに新しい展開を見せ始めているという。

「理化学研究所の統合生命医科学研究センターのグループと共同で、iPS細胞を利用したNKT細胞療法の研究を進めています。近い将来、臨床試験を始められるよう、準備を進めています」

NKT細胞の抗腫瘍効果は���れているが、その細胞数は決して多くなく、通常でも血液中を流れているリンパ球の0.1%以下しかない。進行したがん患者では、さらに少なくなっていることもある。また、たとえNKT細胞が存在しても、がん細胞によって免疫抑制がかけられ、がん細胞を攻撃できなくなっていることもある。iPS細胞からNKT細胞を作り出すことができると、こうした問題が解決できる可能性があるという。

「iPS細胞を使うことで、NKT細胞を大量に作り出すことができます。また、NKT細胞からiPS細胞を作り、そこからNKT細胞を作ると、免疫抑制がかかったNKT細胞を1度リセットすることができます。免疫抑制が解除されたフレッシュなNKT細胞を大量に作り出せるわけです」

実際、理化学研究所では、このようにiPS細胞を使ってNKT細胞を作り出すことに成功し、動物実験においては、マウスの生体内で抗腫瘍効果を発揮することも確かめられているという。

まだ乗り越えるべき課題は多いとはいえ、NKT細胞を用いた免疫療法には多くの期待が寄せられている。

1 2

同じカテゴリーの最新記事