現在3つのがん種で臨床試験を実施中 がんペプチドワクチン療法最前線
全ての治療が臨床試験として行われる
神奈川県立がんセンターのがんワクチンセンターでは、臨床試験としてペプチドワクチン療法が行われている。
「本当に効果があるのか、どういう人に効果があるのかを明らかにするためにも、臨床試験として進めていく必要があります。そのため、試験の条件に合う患者さんに登録していただき、治療を行うという形になっています」
現在進行中の臨床試験は6種類ある(表3)。この内3種類はすでに患者登録が終了している。現在登録を進めているのは、次の3種類の試験である(図4)。


■再燃前立腺がんに対するがんペプチドワクチン療法
前立腺がんでホルモン療法を行っていると、効かなくなることが多い。これを前立腺がんの再燃という。再燃前立腺がんの標準的な治療は、抗がん薬の*タキソテールによる治療だが、肝機能や腎機能が悪いといった理由により、抗がん薬治療が適さない人がいる。臨床試験の対象となるのは、このような患者である。
この臨床試験では、テーラーメイド・ペプチドワクチン療法が行われる。治療を始める前に患者の免疫反応を調べ、12種類のペプチドワクチンの中から、その人に適している4種類のペプチドワクチンを選び出して使用する(図5)。このペプチドワクチン療法は、HLA-A24が陽性の患者だけが対象となる。条件を満たしているかどうかを調べるため、血液検査が行われる。

なお、この治療は「先進医療B」として行われおり、ワクチン費用(1回あたり約6万円)や特殊血液検査(8回ごとに約3万円)は患者の自己負担となるが、それ以外の部分には健康保険が適用される。
■術後肺がん���対するがんペプチドワクチン療法
非小細胞肺がんのⅠ(I)B期~Ⅲ(III)A期で、手術によってがんを取り除くことができた人で、白金製剤(*シスプラチン、*パラプラチンなど)を含む術後補助化学療法を終了した直後の患者、あるいはこれから受ける予定の患者が対象となっている。
この患者を2つのグループに割り付け、一方には5種類のカクテルワクチンを投与し、もう一方にはプラセボ(偽薬)を投与する。ペプチドワクチン療法が、手術後の再発を防ぐのに有効かどうかを調べるわけだ。
「これまでペプチドワクチン療法では、再発予防の効果を調べる臨床試験はほとんど行われてきませんでした。再発を予防するには、体内に残っている微小ながん細胞を死滅させる必要があります。ペプチドワクチン療法は、がんが小さいほど効果があると言われています。非小細胞肺がんは手術しても再発することが多いので、再発率を少しでも下げられないかと期待されています」
■進行膵がんに対する抗がん薬併用がんペプチドワクチン療法
対象となるのは、手術できない進行膵がんで、抗がん薬の初回治療として*ジェムザールを使用する患者である。抗がん薬治療に、6種類のがんペプチドワクチンを併用し、ペプチドワクチンの有効性と安全性を調べる。
*タキソテール=一般名ドセタキセル *シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ *パラプラチン=一般名カルボプラチン *ジェムザール=一般名ゲムシタビン
これから期待される新たなペプチドワクチン療法

まだ臨床試験が始まっていないが、期待されているがんペプチドワクチン療法がある。
肺がんでEGFR-TKI(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬)(*イレッサ、*タルセバなど)を使っていると、いずれ効かなくなってくる。このような患者の約6割に、「EGFR T790M」という遺伝子変異が起きていることがわかっている。
「この変異した遺伝子EGFR T790M由来のペプチドから、ワクチンが作られています。変異した遺伝子は、免疫が非自己として認識するので、免疫反応を起こす力が強いことが知られています。うまくいけば、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬耐性の肺がんに対する有用な治療法になるのでは、と考えられています」
今後は、免疫チェックポイント阻害薬との併用も期待されているという。
「体内における免疫細胞のブレーキを解除する免疫チェックポイント阻害薬と、がんに対する免疫を強めるがんペプチドワクチン療法を併用すれば、がん細胞により効果的ではないかと期待されています。まだ人に対してははっきりとしたエビデンス(科学的根拠)はありませんが、併用療法というのも今後期待が持てると考えています」
クリアすべき課題も多いが、期待も大きいがんワクチン療法。新たな臨床試験の結果を待ちたい(図6)。
*イレッサ=一般名ゲフィチニブ *タルセバ=一般名エルロチニブ
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