免疫力アップで照射部位から離れた病巣でもがんが縮小 アブスコパル効果が期待される免疫放射線療法

監修●鈴木義行 福島県立医科大学医学部放射線腫瘍学講座教授
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2016年11月
更新:2016年12月


免疫療法との併用の研究進む

鈴木さんは、近隣の病院で免疫療法と放射線療法の併用が効果を発揮した70代の女性腎がん患者の例を示した。患者は2008年に左腎摘出術を受けたが、翌年に再発した。その後は体調が悪く化学療法も不可能な状態になり、痛みとだるさから寝たきりの状態になってしまった。そこで、免疫療法を勧める娘さんに抱えられるように病院を訪れた。

まず、免疫療法(活性化リンパ球療法)が開始されたが、本人・娘さんの希望で10年11月から局所再発と皮下転移に対して、年齢や全身状態(PS)を考えて安全な1回照射量2Gy(グレイ)を25回照射する放射線治療を追加したところ、腫瘍が縮小(PR:部分奏効)、PET検査でもがんが小さくなった様子がわかり、PSも4から1に大きく改善した。

患者は2年数カ月後に亡くなったが、自宅で通常の日常生活が送れるほどに体調を取り戻して、多くの期間はQOL(生活の質)を維持した暮らしを続けられたという。鈴木さんは「CTL数の変化など腫瘍免疫学的な検討は行えなかったのですが、免疫療法と放射線療法の併用療法の効果を確信しました」と振り返える。

オプジーボの登場で加速

近年はがん免疫療法の薬剤も劇的に進歩しており、鈴木さんもその併用効果に注目している。「オプジーボなど免疫チェックポイント阻害薬の登場はとても大きなことでした。エビデンス(科学的根拠)のある免疫療法なので併用が期待できます。組み合わせやタイミング、投与量など証明すべきことがたくさんあるので、研究していきたい」としている。WT1を用いた樹状細胞ワクチン療法との併用なども候補だという。

米国では、オプジーボやヤーボイを使用した免疫放射線療法の臨床試験がすでに進んでおり、「放射線治療と同時、もしくは放射線治療直後に行うとアブスコパル効果がかなりの確率で生じたという報告がいくつか出ています。我々も併用療法の臨床試験への取り組みを計画中です。放射線は最後の一押し。免疫療法で底上げしておくとアブスコパル効果が出ると考えているので、放射線が当たった時に免疫が上がっている状態にするために、免疫療法を早めに始めるのがよいと思います」と話す。

また、大阪大学では今年(2016年)8月末から非小細胞肺がんにおけるオプジーボと放射線治療を併用する第Ⅱ(II)相臨��試験の募集を始めた。参加は20歳以上の男女17人が目標で、「根治放射線照射が不可能なⅣ(IV)期または再発症例」などという条件がある。方法は、オプジーボを2週間ごとに静脈内投与し、 投与から7日以内に局所放射線治療を開始するというもの。こちらの取り組みも注目される。

オプジーボ=一般名ニボルマブ ヤーボイ=一般名イピリマブ

効く人と効かない人を選別する

免疫放射線療法の患者メリットを鈴木さんに聞いた。

「放射線治療は、治療後に再発した場合、周囲の正常組織への影響から2度同じ部位に照射するのは苦手ですが、アブスコパル効果がある場合は転移巣に放射線を照射しても原発巣にも効くことになるので、患者さんにとって放射線治療という選択肢が増えます。また、大きながんがある場合は、免疫力で目に見えないがんを叩いてもらい、放射線は小さい範囲の照射でよいということも考えられます」

今後はどのような展開が考えられるだろうか。

鈴木さんは「免疫療法では、オプジーボでもそうですが、効果のあるケースと効果のないケースがあります。遺伝子の傷がたくさんあるがんでは、変異が多いため〝異物〟と認識されやすく免疫治療が有効であり、そうではないと効果が少ないとも言われています。免疫放射線療法でも効く症例、効かない症例を選り分ける研究を進めていければと考えています。個人やがん種にもよりますし、ステージの進行による体力低下といったことも関係するのだと思います。そのためにはデータの集積が必要となります。採血や生検で、治療前に治療効果の有無を見極めることができればと考えています」と個別化治療への課題を挙げた。

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