進行膵がんに対する TS-1+WT1ペプチドパルス樹状細胞ワクチン併用療法の医師主導治験開始
TS-1単独療法とワクチン併用法を比較評価
今回の臨床試験では、「TS-1+WT1ペプチドパルス樹状細胞ワクチン(TLP0-001)併用群」と、「TS-1+プラセボ群」を比較する。
TS-1は、テガフール、ギメラシル、オテラシルカリウムの3つの成分をバランスよく配合した抗がん薬。膵がん以外の消化器がん、乳がん、肺がんなどにも広く用いられている。
プラセボとは有効成分を含まない薬のことである。
試験は臨床試験専用のコンピュータシステム(EDC)によって管理される。被検者(患者)はランダムに1:1の割合でどちらかの群に割り付けられる。どちらの群に該当するかは、被検者はもちろん、担当医師や看護師にも知らされない。
「薬は、医師の手元に届いた時点でどちらか分からないようになっています。TS-1+プラセボ群に当たったとしても、それは現在の標準治療であり、実績のある治療法ですから、患者さんは心配される必要はありません。今回は標準治療+ワクチンの上乗せ効果の検証と考えてください」
治験に参加する被検者には、一次化学療法を始める際に参加の同意を得ておく(一次登録)。このタイミングなのは、TLP0-001の製造に4~5週間を要するからだ。
「患者さんには、『将来的に二次化学療法を行う必要があるかもしれません、そのときに治験に参加しますか?』と事前に十分な説明を行った上で、ご自身に決めていただきます。治験に参加しなくても、その後の治療に不利益なことは決してありませんし、試験の途中で止めることもできます。ただし、過去に別のがん免疫療法(がんワクチン療法、免疫チェックポイント阻害薬など)を受けたことのある方は、この治験に参加することはできません。このほかにも参加条件がいくつかありますので、医師に確認してください」
治験に同意した被検者は、HLA検査で白血球の型を調べる。型によっては参加できない場合もあるが、およそ8割が適合となる。適合すればアフェレーシス(成分採血)を行い、採取した白血球を治験製品提供会社に送ってTLP0-001が製造される。つまり、ワクチンは被検者本人の樹状細胞から作るオーダーメイドなのだ。
「将来的に保険適用となっても、この方法は変わりません。ただ、製造サイクルを短くする研究は行われています」
投与スケジュールは、TLP0-001またはプラセボの注射が2週間ごと、TS-1が4週投与2週休薬。6週を1コースとして繰り返していく。基本的に入院は必要なく、通院で治療できる。
TLP0-001およびプラセボの投与量は1mLで、腋窩(えきか:脇の下)または鼠径部(そけいぶ:脚のつけ根の内側)に皮内注射する。痛みを緩和するため0.1mLずつ10カ所に分けて注入する。TS-1は、規定量を1日2回に分けて服用する(図3)。
アフェレーシスやTLP0-001などの治験に関わる費用は無料。ただしそれ以外の検査費や治療費は必要となる。

副作用が少なく、QOLも維持できる樹状細胞ワクチン
樹状細胞ワクチンは、一般に副作用がほとんどないのが利点の一つと考えられている。被検者自身の細胞で作ること、正常細胞は攻撃しないこと、それ自体に細胞傷害性がないことなど、体に負担が少なくQOL(生活の質)を維持できる治療法と言える。
ただし、注射による反応(赤くなる、腫れるなど)はほとんどの人に見られ、まれに肺炎などの自己免疫性疾患が起こることもある。それらを含めた安全性も、治験における検証の対象となる。
現在、和歌山県立医科大学附属病院で治験に参加している患者(二次登録者)は3名。今後1年間で12名の二次登録者を予定している。2018年度からは全国約20カ所の施設で治験を開始する。185名を目標患者数とし、まずは2年をめどに症例登録を完了、2022年まで計5年間の治験を行う。
有効性が証明されれば承認申請を行い、保険治療を目指す。認められれば、がんワクチン療法として日本で初めての保険適用となる(図4)。

ワクチン療法のエビデンスを一つひとつ積み上げていく
少し前のワクチン療法の中には、しっかりとしたエビデンス(科学的根拠)がないまま治療に使われたものもあった。いまだにワクチン療法に対して眉唾(まゆつば)的な印象を持つ人がいるのも確かであろう。
勝田さんは「がんペプチドを薬に応用する臨床研究が活発になったのは、10年くらい前からです。この薬は本当に効くのか、安全性は高いのか。そういうことを今はしっかり検証し、科学的に研究が行われています。これまで第Ⅲ相試験で有効性が検証できなかったワクチンも数多く研究されてきましたが、新たながんペプチドワクチンの開発研究も着実に継続されています。
この治験も、〝WT1ペプチドパルス樹状細胞ワクチンは膵がんに効く〟というエビデンスを積み上げるために行うものです。本当は、希望する患者さん全員にこのワクチンを投与できればいいのですが、それでは証拠を示すことができませんから…。患者さんにはもう少しだけ待ってください、と伝えたいです。良い結果が出ると信じています」と熱く語る。
臨床試験の結果に期待したい。
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