白血病に対する新しい薬物・免疫細胞療法 がん治療の画期的な治療法として注目を集めるCAR-T細胞療法

監修●今井千速 新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野准教授
取材・文●伊波達也
発行:2018年5月
更新:2019年7月


従来の免疫療法とは異なる

リンパ球の活性化というと、以前、民間のクリニックなどで盛んに行われていた「活性化リンパ球療法」という治療があったが、それとは大きな違いがあると今井さんは説明する。

「いわゆる活性化リンパ球療法といわれていたものは、非特異的な末梢にあるリンパ球をただ闇雲に活性化したものを大量に投与していただけですので、攻撃するターゲットがぼんやりしていてあまり有効性がありませんでした。

一方、CAR-T細胞療法は、少量投与するだけですが、リンパ球の特異性を変える処理をした細胞を入れていますので、明確にターゲットに向けて狙い撃ちができるのです」

狙った標的のみを殺傷するという点では大きな力を発揮し、人種やHLA(ヒト白血球抗原)などに関わらず、万人に効くのがCAR-T細胞療法なのだ。

一方、体内でのT細胞の急激な増殖は、免疫活性化することで、サイトカイン放出症候群(CRS)という患者の体にかなり重篤な症状が現れる副作用も生じる。

またCAR-T細胞療法が適応となる患者は、それまでに数回の治療を経て、体力的に疲弊しているケースも多く、血液がんのICU(集中治療室)を完備し、熟練した医師やスタッフが集まっている病院での治療が必要不可欠だ。米国でも保険適用は承認されたものの、数十施設のみでしか治療はできないという。日本で認可された場合でも小児腫瘍の治療に長けた小児専門病院か総合力のある大学病院の10~15施設に集約しての治療が妥当だと今井さんは話す。

治療には1回あたり47万5,000ドル(約5,200万円)かかるという薬価が高額であるという問題もある。ただし、この点については製薬会社が、治療が成功した場合のみ薬価を請求するという仕組みを作ったという。

いずれにせよ、日本での保険適用承認が待たれる。

日本発のウイルスを使わない製造法の開発も

現在、各大学や研究施設、製薬企業が取り組むCAR-T細胞療法の実用化に向けての研究は数々あり、各チームがしのぎを削っているという状況だ。

今井さんが注目しているのが、名古屋大学と信州大学が共同で行っている研究だという。

「2018年2月から始まった、CD19のCAR-T細胞療法の安全性に対する第I相試験です。これはCD28のシグナルを用いた別のタイプのCARを使っています。レンチウイルスというウイルスベクターを使ったキムリアとは異なり、酵素を使ってCAR遺伝子をT細胞に組み込む、酵素ベクター法を採用しています。ウイルスを使わないため、製造法が簡便で、コストも安くできることがウリです。将来的に実用化に向かってくれることを期待しています」

他にもさまざまな研究が進んでいる。

「数々の研究が進む中で、年々さまざまことが解明されていくでしょう。有効性がどんどん明らかになっていけば、さらに奏効率、寛解率は向上していくことが期待されます」

すでに、がん細胞側が、標的であるCD19の目印を消すという現象も起こしており、CAR-T細胞療法での再発が起こり始めているという。今後の研究での対抗策の構築が望まれる。

さらなる将来における課題は、がん種を広げ、固形がんへ広く応用されるということだ。

「固形がんと血液がんはかなり隔たりがあります。白血病はバラバラに1つずつ存在しうるのですが、固形がんは塊の中に、正常細胞、血管、線維芽(せんいが)細胞などさまざま絡み合っている中にがん細胞が詰まっています。それで攻撃するリンパ球を邪魔する物質が入っていたり、リガンド(特定の受容体に特異的に結合する物質)を出してきたりして免疫反応を阻害するのです。それらを切り抜けてどう攻撃するか、あるいは狙い撃ちにするターゲットをいかに見つけるかが難しいのです。そのメカニズム(機序)を解明していくことが課題です」

今井さん自身も、現在、固形がんに対して、CAR-T細胞療法が有効性をもてるかどうかについての基礎研究を進めているという。

「私は、小児の急性リンパ性白血病で実用化に至ったCAR-T細胞療法の先駆けになる研究に携われたことを大変嬉しく思っています。それを実用化してくれた研究者に対しても感謝しています。日々、小児科で子どもさんたちの診療をする臨床の場にいるとそう感じます。今後、CAR-T細胞療法は、さらにさまざまな研究により進化するでしょうし、特定の施設で治療が実践される日もそう遠くないと思います。私自身は日常の臨床を行いながら、次もまた、将来の治療法の実用化に貢献できる、その取っ掛かりとなるような基礎研究に力を注ぎたいと思っています」

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