光免疫療法が踏み出した第一歩、膨らむ期待値 世界初、頭頸部がんにアキャルックス承認!
頭頸部がん以外への拡大は?
頭頸部がんも第Ⅲ相試験の真っただ中である今、少々気は早いが、やはり気になるのは他のがん種への適応拡大だ。
「扁平上皮がんが大多数でEGFR発現が多い食道がんは、現在、当院(国立がん研究センター東病院)で第Ⅰ相臨床試験を行っています」
同じくEGFR発現が多い子宮頸がん、そしてアキャルックスに使われているEGFR抗体薬アービタックス適応の大腸がんではどうなのだろうか?
「どちらもEGFRを発現しているので将来的には期待できますが、現時点では内臓臓器であることが大きなリスクです。光免疫療法は光を照射してがん細胞を破裂させてしまう治療法なので、状況を内視鏡などで確認できることが重要。内臓の中にはカメラが入らないので、何が起こっているかわからないのが最大のネックです」
がん細胞が血管に浸潤していると、血管ごと破壊してしまい、大出血を起こしかねない。内臓の壁を突き破ってしまったり、大きな血管にダメージを与えたりしないためにも、治療状況を目視、あるいは内視鏡で確認できる部位であることが、現時点では必須。いま第Ⅰ相試験が進んでいるのが、内視鏡で確認できる食道がんなのも頷ける。
「皮膚がんも今後、臨床試験が始まるのではないか」と田原さんは語った。皮膚がんもEGFR発現が多く、かつ光を照射しやすい。光免疫療法が始まったばかりの今は、まずは光を照射しやすく、治療状況がしっかり確認できるがん、が優先になりそうだ。
「新しい治療が出てきたときに最も大切なことは、いかに安全に治療していくかです。ともすると効果の素晴らしさにばかり目が行きがちですが、そこは落ち着いて、まずは安全性を重視しないといけない。そういう意味で内臓臓器への拡大は慎重にならざるを得ません。今後、1つひとつ考えられる問題点を克服し、臨床試験で実証されて初めて、内臓臓器への適応も進んでいくのではないでしょうか」
HER2陽性乳がんの治療薬になるか?
アキャルックスにはEGFR抗体アービタックスが使われているので、対象はEGFR発現のがんに限られるが、原理的には、抗体薬を変えれば、EGFR以外の受容体もターゲットにできるはずだ。例えば、アービタックスをHER2(ハーツー)抗体のハーセプチン(一般名トラスツマブ)に変えたら、HER2陽性乳がんを治療することもできるのではないだろうか。
「新薬の開発から始めなくてはなりませんが、原理的には可能ですし、将来的には大いに期待できると思います」と田原さん。
光免疫療法はシンプルな機序を持つため、原理的にはさまざまながん種への応用が考えられる。ただ、それを可能にするのは、新薬の開発はもちろん、その後もそれぞれの状況で起こり得る問題点を1つひとつ検証し、クリアしていく膨大な作業を避けて通ることはできないようだ。とはいえ、それは決して手の届かない未来ではない。
「肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬オプジーボも、最初は切除不能な再発進行がんのみの適応でしたが、その後検証を重ね、今では早期がんはもちろん、術後補助療法としても使えるようになりました。そこにたどり着くには数千人の患者さんが臨床試験に協力くださり、時間をかけて安全性を担保してきたのです」
免疫チェックポイント阻害薬は、2014年メラノーマ(悪性黒色腫)への最初の承認から6年間でここまで適応拡大した。5年後の光免疫療法の拡がりに期待したい。
早期がんへの適応、術後補助療法としても
光免疫治療は究極の局所治療。正常な組織に影響を与えず、がん細胞だけを死滅させるメカニズムに、これからの適応拡大が大いに期待されるところだ。田原さんは「とくに早期がんにこそ光免疫療法が力を発揮するだろう」と話す。
「がんが小さいほど血管に浸潤していないので安全に治療を受けられますし、完全にがんが消失する可能性も高いでしょう。頭頸部がんでは早期でも表面に複数の腫瘍ができるケースが多く、光照射だけでいっきに治療できるのも利点です。内視鏡を使って1つずつ切除するのとでは患者さんの負担も大きく違ってきます」
もう1つ、手術後の補助療法としても期待しているそうだ。
「手術前日に薬剤を点滴し、手術で患部を摘出した直後に周囲に近赤外線を照射することで、目に見えない取り残しをその場で死滅させることが期待できます。抗がん薬治療や放射線治療と比べて、格段に体に負担をかけない補助療法になり得るのではないかと思っています」
多方向に拡大の期待が膨らむ光免疫療法。いずれにせよ、まずは安全性の担保が何より大事であることを念頭に、検証を重ね、1つずつ適応が拡大されていくことを望みたい。
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