がん細胞が組織をつくるとNK細胞だけでは太刀打ちできない。免疫細胞を総動員して攻撃する必要性が これだけは知っておきたい免疫療法の基礎知識

監修:中山俊憲 千葉大学大学院医学研究院免疫発生学教授
取材・文:柄川昭彦
発行:2008年12月
更新:2013年4月

がん細胞を見つけ出し、排除するNK細胞とNKT細胞

がんの発症にも関わっている免疫だが、がん細胞を攻撃する免疫細胞には、次のような種類がある。

▼マクロファージ……組織の中を移動しながら、異物(=非自己)を食べていく。傷ついたがん細胞やがん細胞の死骸を主に食べる。

▼キラーT細胞……リンパ球の一種で、攻撃力がとても強い。がん抗原を認識し、対象を絞り込んで攻撃する。

▼B細胞……抗体を作る機能を持ったリンパ球。がん抗原に特異的な抗体を作り、それを放出する。

▼NK細胞……常に体内をパトロールし、がん細胞を発見し、殺傷する働きをもつ。

▼NKT細胞……NK細胞とT細胞の両方の性質を持つ。NK細胞と同様、体内をパトロールし、がん細胞を見つけると殺す働きをもつ。

これらの免疫細胞のうち、体内で毎日できるがん細胞を見つけ出し、それが増えないうちに排除しているのは、パトロール役を担っているNK細胞やNKT細胞だという。

がんになってしまった人は、体内で誕生したがん細胞の力に比べ、NK細胞やNKT細胞といった免疫細胞の力が、相対的に弱かったということなのだ。老化などで免疫の力が落ちている場合でも、遺伝子に傷がついてがん細胞が生まれやすくなっている場合でも、がん細胞の力に比べ、免疫細胞の力のほうが弱くなる。この環境が、がんという病気を生み出すことになるのだ。

[がんを攻撃する免疫細胞]
図:がんを攻撃する免疫細胞
[白血球の種類]

顆粒球 好中球(細菌・カビなどを貪食・殺菌)
好酸球(寄生虫感染、アレルギー・炎症に関与)
好塩基球(ヒスタミン含有、アレルギー・炎症に関与)
単球 マクロファージ(組織内を移動し、異物��飲み込んで貪食)
樹状細胞(高い抗原提示能力。T細胞に抗原情報を伝達し活性化)
リンパ球 T細胞(B細胞やキラーT細胞などを助けるヘルパーT細胞、ウイルス感染細胞やがん細胞を殺すキラーT細胞、免疫を抑制する制御 性T細胞などがある)
B細胞(抗原特異的な抗体を分泌)
NK細胞(体内をパトロールし、ウイルス感染やがん細胞を監視し傷害)
NKT細胞(NK細胞とT細胞の性質を併せ持つ。免疫調節作用あり)

がん細胞に強い攻撃力を持つキラーT細胞

体内にがん細胞ができたとき、まず働くのはNK細胞やNKT細胞だが、これらの免疫細胞の働きには限度がある。

「がん細胞がいくつか集まったくらいで、まだがん組織になっていなければ、全身をパトロールしているNK細胞やNKT細胞が、がんを見つけ出し、そこに取りついて殺してしまいます。ところが、その段階を生き延びて組織となったがんは、NK細胞とNKT細胞だけでは太刀打ちできません。免疫細胞を総動員して、それらがシステムとして機能することで、がんを攻撃します」

この段階におけるシステム化された免疫の働きにおいて、攻撃の中心を担っているのは、リンパ球の一種であるキラーT細胞だ。この細胞の力は強力で、がん細胞に対する攻撃力はNK細胞よりもかなり強いという。

もっとも、T細胞はもともと強い攻撃力を持っているわけではない。抗原提示細胞と呼ばれる樹状細胞が、がん細胞を食べてリンパ節に行き、そのがん細胞の目印である抗原(がん細胞の表面に出ているタンパクの断片)を提示すると、それに反応してT細胞が活性化するのだという。つまり、樹状細胞が「あいつが敵だ!」とT細胞に知らせることによって、キラーT細胞が活性化し、がん細胞への攻撃が始まるというわけだ。

「現在、がんの免疫療法として行われている治療の多くは、特異的ながん抗原でキラーT細胞を活性化し、それによってがんを攻撃しようというものです。キラーT細胞を活性化させる方法には、いろいろなやり方があるのですが、このタイプの免疫療法が幅広く行われています。この治療は攻撃力が強力なので、うまくいけばがん組織が小さくなることもあります。現在、メラノーマのがん抗原が最もよくわかっていて、免疫療法によってがんが小さくなったという症例も確認されています」

このような治療は、総称して、抗原特異的T細胞療法と呼んでいる。がん抗原を皮膚に注射し、そこで樹状細胞に取り込ませる方法や、樹状細胞にがん抗原をまぶして注射する方法などがあるという。

抗体を使った分子標的薬も出てきている

B細胞もがんを攻撃する働きを持っているが、攻撃する方法はT細胞とはまるで違っている。

「B細胞は抗体を作る機能を持ったリンパ球です。がん抗原に特異的な抗体を作って放出するのですが、その抗体ががん組織に結合すると、マクロファージなどが食べて処理してくれます。乳がんの分子標的薬としてよく知られているハーセプチン(一般名トラスツズマブ)は、このような抗体の一種です。乳がんの細胞にがん抗原が出ているような場合、この抗原に対する抗体を注射で投与すると、非常に強い抗腫瘍効果を発揮します」

抗体を使った治療は抗体療法とも呼ばれている。この治療法に関しては、新しい分子標的薬の開発を目指して製薬会社が研究開発に取り組んでいる。

図:がんを攻撃する免疫細胞
NK細胞は常に体内をパトロールし、がん細胞を発見して殺傷する働きをもつ

一方、がん細胞を殺傷する作用を持つNK細胞を使ったがんの免疫療法もある。これはLAK療法と呼ばれるもので、患者さんから血液を採取し、そこからリンパ球のみを分離。これをインターロイキン-2とともに培養することで、NK細胞を活性化させ、その後再び患者さんの体内に戻すという方法。

前述したように、がんになるのはNK細胞などの働きが落ちているためなので、それを増強することで、がん細胞への攻撃を促すというわけだ。


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