免疫とは何か。がんに対して免疫はどう反応しているか。 免疫のイロハを学ぶ

監修:河上 裕 慶應義塾大学医学部先端医科学研究所所長細胞情報研究部門教授
取材・文:池内加寿子
発行:2007年8月
更新:2019年7月

自然免疫(初期免疫)と獲得免疫

「免疫機構は、自然免疫(初期免疫)と獲得免疫の2段構えで作動します。細菌などの異物が入ってくると、まず好中球、マクロファージ、樹状細胞などの細胞がただちに駆けつけ、それらを食べたり殺菌したりします。これを自然免疫といいます。自然免疫系は外から異物が入ってきたらすぐ応答するのが特徴です。おできの細菌などは、好中球が食べてしまえば免疫反応が終了。一方、ウイルスなどの小さな病原体の場合は、自然免疫ではカバーしきれないので、樹状細胞からウイルスの情報を受け取ったリンパ球が引き継ぎ、緻密な戦いを展開します。これを獲得免疫といいます」

獲得免疫系は、リンパ球がねずみ算的に増えるので、自然免疫系に比べて非常に高出力で、抗原特異的、つまり目的の抗原(敵)だけにピンポイントで効率的に対処でき、しかも、記憶を残せるのが特徴です。

たとえば、インフルエンザウイルスを食べた樹状細胞がリンパ球との出会いの場所であるリンパ節まで行ってT細胞に抗原(目印)を見せると、その抗原にだけ反応するT細胞、B細胞などが分裂して増え、このインフルエンザ専用の連隊が編成されます。それぞれの免疫細胞は、インターロイキンなどのサイトカイン(ホルモン様の生理活性物質)を出して活性化し合います。そして、キラーT細胞がウイルス感染細胞を殺したり、B細胞が抗体でウイルスを無力化したりして退治します。

「生体が初めてその抗原(敵)に出会ったときは、獲得免疫が作動するまでに2、3週間かかります。ところが、一部はメモリー細胞となって記憶を残すので、次に同じ抗原が入ってきたときには、瞬時に増えてすぐに戦いに臨めます。そのため、1度かかった感染症には2度とかからないか軽くすむわけです」

このしくみを応用したのが予防注射です。弱毒化した病原体のワクチンを打っておけば、抗体ができ、2度目に本物の病原体が入ってきたときには即座に抗体を増やして攻撃するため、発症をおさえられるのです。

がんに対する免疫反応

がんの場合も、このような免疫機構が働いているのでしょうか。

[図1 がんに対する正と負の免疫応答]
図:免疫監視機構
図:免疫回避機構

「じつは免疫機構ががんを異物とみなすかどうか、議論が分かれるところです。発がん初期の段階では、免疫機構ががん細胞のたんぱく質などの性状の違いを見つけて、異物として排除していると考えられています(免疫監視機構。図1参照)。ヒトでの状況証拠や動物実験データから、NK細胞やT細胞が主に関係していると思われます。ただ、がんが大きくなってからのNK細胞の働きはよくわかっていません。NK活性を上げればがんが治るというのは短絡的ですね」

がんと診断されるほどの大きさになった場合は――。

「直径5ミリ程度のがんでも、10の8乗個ほどのがん細胞が存在しますから、すでに相当数の分裂を重ねています。それまでに免疫監視の目を逃れているわけで、1度みつかったがんが自然治癒することは一部のがんを除いてほとんどありません」

そこで、がんを異物として認識・攻撃できるように、免疫機構のいろいろなファクターをさまざまな操作で増強する能動免疫療法や養子免疫療法が開発されてきたのです。

「メラノーマや腎臓がんなど免疫応答が起こりやすいがんでは、攻撃サイドの免疫系を増強するだけでも、比較的効くケースがみられます。たとえば、インターロイキン2というサイトカインを投与して免疫系を刺激すると、消失や縮小効果がみられることがあり、腎がんでは保険も適用されています」

免疫療法の現状と課題将来の展望は

現在、大学病院などでは、がん抗原に対するT細胞や抗体を多量に作って投与する「養子免疫療法」や、人工的に作ったがん抗原や、がん細胞やその成分を接種する「能動免疫療法(がんワクチン療法)」などが試みられ、一部では効果が認められています。

体外で培養した免疫細胞を用いる免疫細胞療法では、リンパ球や樹状細胞を体外で培養調製し、数を増やしたり機能を強化したりして体内に戻します。以前は、体外でむやみに活性化させたリンパ球を体内に戻す方法が主流でしたが、最近では、がんを選択的・効率的に狙い撃ちするため、人工的に合成したがんペプチドや腫瘍組織を利用して調製した、がん抗原を提示する樹状細胞や、がん抗原を特異的に認識するT細胞が用いられています。

最近では、様々な遺伝子操作で強力なT細胞を作成することも試みられています。

民間では、比較的簡単にできる非特異的活性化リンパ球療法、NK細胞療法、樹状細胞療法などが行われています。

河上さんは、体外で樹状細胞を増やして、凍結融解して自分のがん抗原の取り込みをしやすくしたがん組織内に、トール様受容体を刺激する物質で短時間刺激した樹状細胞を直接投与する「樹状細胞腫瘍内投与法」を開発し、動物実験で高い効果がみられたため、肺がん、メラノーマ、消化器がん肝転移を対象に臨床試験を実施し、現在、一部、効果が期待されそうなメラノーマや肺がん症例を経過観察中です(図2参照)。

[図2 樹状細胞腫瘍内投与による免疫療法]
図2 樹状細胞腫瘍内投与による免疫療法

まず、血液から単球を分離し、純度の高い樹状細胞を培養調製する。腫瘍を凍結融解した後、トール様受容体を刺激するBCG-CWSで短時間培養した樹状細胞を腫瘍内に直接投与して、体内で個々の患者さんのもつ適切ながん抗原に対するT細胞を誘導する。メラノーマや、原発性肺がんの一部で、がんの縮小効果が期待され現在、経過観察中。臨床試験はすでに終了し、現在新たな患者さんは受け付けていない

さて海外では、手術後の補助療法として能動免疫療法が最近改めて注目されているそうです。

「肺がん手術後のがん抗原ワクチンによる再発予防効果、前立腺がん術後の樹状細胞ワクチンによる生存率の改善効果などの可能性を示す臨床試験結果が話題になっています。ただし、1つの臨床試験だけで有効とするのは早計ですね」

免疫療法の将来は明るく見えますが、まだ課題も多いとか。

「先端レベルの研究では、メラノーマや腎がんではある程度の効果は確実に認められていますが、多くの肺がん、大腸がん、胃がんなどで腫瘍が消失(CR)・縮小(PR)するケースはまだ少なく、絶え間ない改良が必要です」


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