免疫とは何か。がんに対して免疫はどう反応しているか。 免疫のイロハを学ぶ
自分の体から発生したがんは異物か
一筋縄ではいかない理由は、先に触れた「がんの異物性」の問題と、「免疫を抑制する負の要因」が大きいと河上さんは考えています。
「たしかに、がん細胞は遺伝子の変異によって本来の自分にないたんぱく質を持っていて、アミノ酸の配列がAAAではなくAABになっていたりしますが、それは外からの侵入者ではなく、自分の体から発生したもの。何年もかけてがん化しているため、自分との境界があいまいで、変異したたんぱく質に対しても、自己を攻撃しないという免疫の基本であるトレランス(免疫寛容)が起こっている可能性があるのです」
生体にとって構造的にはがんは異物でも、免疫細胞にがんが異物と認識されるかどうかは別問題。免疫にとっての異物とは、「反応できるかどうか」なのです。
「そこで、がんを異物化して攻撃すればいい、と思いますが、完全に異物化することは簡単ではありません。体内の95パーセントのがんが異物化できても、残りの5パーセントのがんが再燃を起こします」
一方、がん自身のほうも大きくなるに連れてさまざまな免疫抑制物質を出し、また、免疫を抑制する制御性T細胞などを誘導して、免疫系をブロックするバリアを強めてきます。
「こうした負の部分をどうするかも難題で、現在それを解決する方法を模索中です」
河上さんが10年間勤務していたアメリカ国立がん研究所では、免疫抑制を起こす多様な物質や細胞を一網打尽にするため、免疫を抑える制御性T細胞だけでなく、良いリンパ球も含めてリンパ球全体をいったん根こそぎつぶして、その後で、体外で培養調製したがん攻撃力の強いT細胞を戻すという方法が試みられ、メラノーマでは、進行がんでも約半数にがんが縮小あるいは消失する結果が得られています。しかし、負の要因を強く抑え込むことによる、自己免疫反応などの副作用も問題になっています。
「私たちは今、がん細胞がだす多様な免疫抑制物質や免疫抑制細胞を誘導してしまう物質を、がん細胞の遺伝子異常を抑える分子標的薬などを用いて、根本でまとめて抑えることにより、体内の土壌を整えた上で、がんワクチンや養子免疫療法などのよい種を選んでまくという方向で現在基礎研究を続けています」
免疫療法を受けるときは説明を聞き、納得してから
実際に、免疫療法を受けるときは、具体的な治療の内容や奏効率、副作用の有無などを、いつわりのない説明をきちんと受けて、納得した上で始めることが大切です。臨床試験の場合は、治療費部分は無料になりますが、民間では費用が全額自費扱いで高額です。
「民間で行われている非特異的活性化リンパ球療法などは、以前に大学病院で試され、強い効果は得られなかったものが多く、現在の最先端の方法とは異なります。またエビデンスが少ないため、まだ治療として確立されたものではありません。
ただ、全然効かないわけではなく、がん細胞のもつ特性と患者さんの免疫応答性がたまたまうまく合致した場合は有効なケースも少数あり、否定はできません。プラシーボ(擬似薬)効果や、活性化リンパ球投与によるQOL(生活の質)改善の可能性もあるでしょう」
とはいえ、「この方法は効きますよ」などと勧められたら信用しないほうがよいようです。
「免疫療法と抗がん剤を併用する場合、多くの抗がん剤は、免疫には不利になる場合がほとんどで、その併用はなかなか難しいです。しかし、エンドキサン(一般名シクロフォスファミド)、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)、TS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)、タキソール(一般名パクリタキセル)に関しては、適量を上手に使うとあまり免疫抑制効果がなく、むしろ制御性T細胞などのマイナス要因を抑えて、免疫療法の効果を高める可能性もあるとの報告もあります。ただ、まだ研究段階なので医師と良く相談する必要があります」
標準治療が奏効しなかった場合の次善の策
医療者によっては先進的な免疫療法といえども、エビデンスが十分ではないから勧めないとの意見もありますが、河上さんはこう結んでいます。
「もちろんエビデンスのある標準治療が基本です。ただ日本には現在、標準治療で効果がなくなったがん患者さんに対して体系的なフォローシステムが十分でなく、がん難民と呼ばれる不幸な状況が起こっています。
アメリカのMDアンダーソンがんセンターなどのがん医療機関では、標準治療が奏効しなかった場合に備えて、新治療の臨床試験に参加できる次善の策を提案できるように医師もスタッフもそして患者さんも教育されているようです。まだエビデンスはないけれどもこのような可能性があります、と救いの手を差し伸べることは、がん医療においては、特に重要な医師の務めではないでしょうか。免疫療法を行う側もエビデンスを作れるように臨床試験として実施して、きちんとデータを蓄積していく必要があります」
能動免疫療法 | ペプチドワクチン | がん抗原たんぱく質の断片(10個前後のアミノ酸からなるペプチド)を人工合成し免疫増強剤とともに接種する。体内で樹状細胞が取り込んで、T細胞に提示し、誘導された抗原特異的T細胞ががんを攻撃。白血球型であるHLAを調べHLA-A2、-A24などHLAタイプに合ったペプチドを使用する。 | |
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がん細胞ワクチン | 切除したがん細胞を増殖しないように処理して接種する。免疫反応を増強するために様々な修飾をしたがん細胞を使用する。 | ||
樹状細胞ワクチン | 抗原提示能力が高い樹状細胞を末梢血から体外で培養調製し、がん抗原あるいはがん細胞成分で処理した樹状細胞を接種する。 | ||
樹状細胞腫瘍内投与 | 体外で培養した樹状細胞をがん組織に注入し、自分のがん抗原を体内で取り込ませ、がん抗原特異的T細胞を活性化。がん抗原の取り込み促進のために、凍結融解などの様々な腫瘍の前処置をする。 | ||
受動免疫療法 | 活性化自己リンパ球 移入療法 | LAK療法 | 末梢血を体外でIL(インターロイキン)-2で刺激培養した非特異的キラー細胞(T細胞やNK細胞)の投与 |
CD3刺激活性化 T細胞療法 | 抗CD3抗体とIL2で非特異的に活性化、体外培養したキラーT細胞の投与 | ||
抗原特異的 T細胞療法 | IL2とともに体外で培養したがん抗原特異的T細胞の投与、特異的T細胞は、腫瘍浸潤リンパ球からの誘導したT細胞、あるいは、がん抗原やがん細胞成分で末梢血リンパ球を刺激して体外誘導したT細胞を用いる。 その他に、ガンマデルタ型T細胞、NKT細胞を利用した治療法もある。 | ||
抗体療法 | ハーセプチン(トラスツズマブ)、リツキサン(リツキシマブ)、アバスチン(ベバシズマブ)、エルビタックス(セツキシマブ)、ゼナパックス(ダクリズマブ)などがん細胞の表面抗原や分泌分子などに対するモノクローナル抗体の投与で抗腫瘍効果が確認され、標準治療として使用されている。 |
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