膵がんなどの難治がんでも効果が…… WT1ペプチドを用いた樹状細胞ワクチン療法の最新成果 がん免疫療法の新たな幕開け! がん治療ワクチン最前線

監修:横川潔 医療法人社団医創会セレンクリニック神戸院長
取材・文:柄川昭彦
発行:2010年9月
更新:2013年4月

人工抗原を使うことで多くのがんに対応可能

樹状細胞ワクチン療法を行うためには、樹状細胞の表面にがん抗原を提示させる必要があるが、それにはいくつかの方法がある。まず考えられるのは、患者さん自身のがん組織を利用する方法だ。手術で切除したがん組織を、未熟な樹状細胞に取り込ませることで、成熟した樹状細胞の表面にがん抗原を提示させる。このような方法で行う樹状細胞ワクチン療法を「自己がん組織樹状細胞ワクチン療法」という。患者さん自身のがんを使う優れた方法だが、この治療法を行える患者さんは多くなかった。

「手術で切除した組織は、通常ホルマリン等で保管される場合が多いため、手術後に再発したようなケースでは樹状細胞ワクチン療法を行いたいと考えたとしても、がん組織の使用が難しい場合が多かったのです。この状況を大きく変えたのが、優れた人工抗原の登場でした」と横川さん。

がん抗原の研究が進むことで、新たながん抗原が次々と発見され、人工抗原を使ったがんワクチンが開発されるようになった。

多くのがん種で発現しているWT1を使用

セレンクリニック神戸では、人工抗原として主にWT1というペプチドを使っている。患者さんから取り出した単球を樹状細胞に分化させ、それを成熟させる過程でWT1を加え、その特徴(目印)を細胞の表面に提示させるのである。

「WT1というペプチドの特徴は、多くのがん種で高率に現れています。そのため、WT1を使うことによって、多くの患者さんのがんが樹状細胞ワクチン療法の治療対象となります。また、患者さんによっては、MUC1というWT1と同様、がんに高率に現れる人工抗原も併用しています」

MUC1を使うかどうかは、CA15-3という腫瘍マーカーの値が目安になる。これが上がっていれば、その患者さんのがん細胞にはMUC1が現れていると考えられるので、併用が勧められるという。

プロベンジよりも優れた樹状細胞ワクチン療法

ここまで説明してきたように、テラが提供している樹状細胞ワクチン療法は、樹状細胞を用いた特異的免疫療法である点と、WT1など優れた人工抗原を利用する点に特徴がある。この2点について、前のプロベンジと比較してみよう。

「プロベンジの樹状細胞の純度は11.2パーセント程度と報告されています。つまり、純粋な樹状細胞療法ではなく、樹状細胞と活性化されたリンパ球を一緒に患者さんの体に戻す治療なのです。がんの特徴を覚え込ませたリンパ球を培養して戻す治療をCTL療法といいますが、樹状細胞療法とCTL療法を合わせたような治療法というのが、正しいのかもしれません。そのため、何が効いているのか、はっきりしないところがあります」

その点、テラの樹状細胞ワクチン療法は、樹状細胞の純度が80パーセント以上である。技術の進歩がこれだけの差を生み出している。

「樹状細胞に提示させる抗原も違います。プロベンジで用いられるPAPは、前立腺がんのみに特徴的な抗原ですから、それ以外のがん種には使えません。これに対し、当院の樹状細胞ワクチン療法では、汎用性に優れたWT1を使うため、多くのがん種が対象になります」

前述したように、プロベンジにはFDAが承認したという歴史的な意義がある。しかし、急速に進歩する免疫療法の世界において、すでに最新の治療でなくなっていることも事実なのである。

治療費に関しては、テラの技術を用いた樹状細胞ワクチン療法は、1セット(5~7回の投与が行われる)の治療で、初診料や手技料等含め170~230万円となっている。

治療手段の少ない膵がんで好成績

樹状細胞ワクチン療法は、がんの標準治療と並行して行われたり、標準治療での選択肢がなくなった患者さんに行われることが多い。治療実績は豊富で、全国の提携医療機関の実績を合計すると、すでに約2400例(2010年3月末現在)に達しているそうだ。

「多くのがん種が対象になりますが、治療実績を見ると、膵がんの患者さんが多いですね。悪性度が高く進行が早いので、発見されたときにはすでに進行がんというケースがよくあります。それに、治療法の選択肢が少ないので、標準治療だけでは対処できなくなってしまう患者さんが多いのでしょう」

膵がんに関しては、東京のセレンクリニックにおける治療成績がまとめられている。CR(完全寛解)、PR(部分寛解)、SD(不変)の合計が、全体の34.5パーセントになる。治療を受けた3人に1人に、がんが縮小したり、進行が停止したりする効果が表れたことになる。

[セレンクリニックにおける膵がんに対する臨床成績]

  症例数 割合(%)
CR(完全寛解) 2 4
PR(部分寛解) 4 8.1
SD(不変) 11 22.4
R 6 12.2
PD(進行) 26 53
合計 49 100
腫瘍縮小あるいは腫瘍マーカーの低下等の臨床反応が認められたもの 2010年5月末現在


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