絶妙の組み合わせにより、進行膵がんが完全に消失した例も出た 大きな成果を上げてきた「WT1と樹状細胞の併用療法」
多くのがんで発現解析なしでWT1を使える
評価可能病変(+) | 評価(1ク-ル終了後) | |
---|---|---|
頭頸部がん | 1 | 1PR |
胃がん | 2 | 1SD、1PD |
大腸がん | 3 | 1SD、2PD |
膵がん | 8 | 2CR、5PR、1SD |
肺がん | 9 | 3PR、4SD、2PD |
乳がん | 4 | 1CR、1PR、2PD |
卵巣がん | 1 | 1SD |
前立腺がん | 3 | 3PD |
メラノ-マ | 2 | 1PR、1PD |
計 | 33 | 3CR、11PR、8SD、11PD |
WT1を加えた樹状細胞療法の治療は2007年9月から開始されたが、2008年7月31日までの時点で、全国の数施設で230~240例ほどの症例が集まっている。
セレンクリニックでは、112人の患者さんに治療が行われた。このうち、抗原としてWT1のみを使ったのが28例、WT1と他のペプチドなどを併用したのが84例だった。
「自己がん組織が使える人は、もちろん使いました。ペプチドと合わせるということを始めています。また、腫瘍マーカーなど、使えるペプチドがあれば、それも加えています」
WT1が効くのは、がんにWT1が現れている場合に限られるが、血液のがんにも固形がんにも、非常に高い確率で出現していることがわかっている。胃がんや骨肉腫など、発現率が低いがんの場合は、WT1が発現しているかどうかを調べる発現解析が必要だが、多くのがんは、発現解析なしでも使える。
WT1を使った樹状細胞療法の治療経験の中から、症例を紹介してもらった。
症例1・肺がん
63歳の男性患者さん。進行がんで発見され、かなり強力な抗がん剤治療が行われていたのだが、結果はPD(進行)だった。そこでTS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシル)と樹状細胞療法に切り替えたところ、急に効果が現れてきた。4~5センチメートルあった腫瘍が小さくなり、PETによる検査では、残っている腫瘍もすでに壊死した組織と診断されている。
胸水もなくなり、多発の小さな肝転移も消えた。
「治療経過として、こういうパターンが多いですね。強い抗がん剤をがんがんやっていたけれど、結果はPDで、もっと軽い治療に変えて、それに樹状細胞療法を加えたら効き出したというパターンです」

治療前

治療後
肺腺がんで肝転移、骨転移、リンパ節転移を起こし、胸水がたまった63歳の男性患者さん。タキソテール、シスプラチン等の強力な化学療法を行ったけれども、効果が現れず進行してしまった。
そこで、抗がん剤をTS-1に切り替え、そこへ樹状細胞療法を追加したところ、途端に効果が現れ肺腫瘍が著明に縮小。残っている腫瘍も壊死状態と診断された。胸水もなくなり、肝転移も消失。ただし、リンパ節転移、骨転移は縮小したが、残っている
特に膵臓がんで好成績が出ている
症例2・乳がん
62歳の女性患者さん。手術後に抗がん剤治療と放射線治療を受けたが、それをやっているときに、肺、肝臓、骨に転移した。より強い抗がん剤治療に切り替えて治療したが、結果はPDだった。
副作用で治療を続けられなくなり、フルツロン(一般名ドキシフルリジン)の単剤投与に切り替えた。これに樹状細胞療法をからめたところ、多発性の肺転移がほとんど消え、残ったものも小さくなった。肝臓、骨の転移もPR(部分寛解)かSD(安定)。腫瘍マーカーの値も下がった。

症例3・膵臓がん1
65歳の男性患者さん。ステージ4で手術は適応にならない状態だったため、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)とTS-1による治療が行われた。反応はあったものの、PRまでは行かず、SDで少し小さくなった程度。ジェムザールの副作用で薬を減量しなければならなくなり、樹状細胞療法を組み合わせることになった。そのとたんに効き始めてCR(完全寛解)という結果が出ている。原発巣が完全に消え、肝転移も消え、腫瘍マーカーも正常値に下がっている。


症例4・膵臓がん2
48歳の男性患者さん。手術ができない状態だったが、重粒子線治療を受け、ジェムザールを併用していた。ところが、腫瘍は17ミリから15ミリに小さくなった程度で、あまり効いていなかった。やはりジェムザールが副作用で使えなくなり、TS-1の単剤に変更。ここで樹状細胞療法をプラスすることになった。とたんに効果が現れ、腫瘍のために起きていた膵管の詰まりがなくなり、残存腫瘍が見えないというところまでよくなった。効果判定はPRだった。
「膵臓がんでは特によい結果が出ています。WT1を使い始めてから膵臓がん8例のうち、CRが2例、PRが5例、SD(安定)が1例となっています。現在までのところ、膵臓がんが最もいい成績ですが、これはジェムザールとTS-1という併用療法が確立していることが関係していそうです」
脳腫瘍や白血病にも使っていくことになる
好成績をあげているWT1などを使った樹状細胞療法だが、特に副作用がないのが特徴だ。局所注入の場合、放射線治療を併用することで、放射線による副作用が出ることはあるが、免疫療法では副作用は現れていないという。患者さんにとっては、負担の少ない治療法と言えるだろう。
現在までの段階では、樹状細胞療法は脳腫瘍や白血病の症例数が多くなかった。しかし、WT1を導入したことで、これからは積極的に治療していくことになりそうだ。
「脳腫瘍も血液がんも、WT1のワクチン療法がすごくよく効いているようです。今までは、局所注入が難しいし、合う人工抗原もなかったので、自己がん組織を使うしかありませんでした。そのため症例数は少なかったのですが、やった場合にはよく効いていたのです。現在はWT1が使えるようになったことで、脳腫瘍と血液がんの患者さんが増え始めています。これからはどんどん治療していくことになるでしょう」
WT1は多くのがんに発現し、汎用性に優れているのが特徴。樹状細胞療法も多くのがん種で行われることになりそうだ。
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