絶妙の組み合わせにより、進行膵がんが完全に消失した例も出た 大きな成果を上げてきた「WT1と樹状細胞の併用療法」

監修:岡本正人 セレンクリニック免疫相談、頭頸部・免疫療法外来、
武蔵野大学薬物療法学研究室客員教授
取材・文:柄川昭彦
発行:2008年12月
更新:2019年7月

多くのがんで発現解析なしでWT1を使える

[WT1+樹状細胞の併用療法の効果]

  評価可能病変(+) 評価(1ク-ル終了後)
頭頸部がん 1 1PR
胃がん 2 1SD、1PD
大腸がん 3 1SD、2PD
膵がん 8 2CR、5PR、1SD
肺がん 9 3PR、4SD、2PD
乳がん 4 1CR、1PR、2PD
卵巣がん 1 1SD
前立腺がん 3 3PD
メラノ-マ 2 1PR、1PD
33 3CR、11PR、8SD、11PD
CR=完全寛解 PR=部分寛解 SD=安定 PD=進行

WT1を加えた樹状細胞療法の治療は2007年9月から開始されたが、2008年7月31日までの時点で、全国の数施設で230~240例ほどの症例が集まっている。

セレンクリニックでは、112人の患者さんに治療が行われた。このうち、抗原としてWT1のみを使ったのが28例、WT1と他のペプチドなどを併用したのが84例だった。

「自己がん組織が使える人は、もちろん使いました。ペプチドと合わせるということを始めています。また、腫瘍マーカーなど、使えるペプチドがあれば、それも加えています」

WT1が効くのは、がんにWT1が現れている場合に限られるが、血液のがんにも固形がんにも、非常に高い確率で出現していることがわかっている。胃がんや骨肉腫など、発現率が低いがんの場合は、WT1が発現しているかどうかを調べる発現解析が必要だが、多くのがんは、発現解析なしでも使える。

WT1を使った樹状細胞療法の治療経験の中から、症例を紹介してもらった。

症例1・肺がん

63歳の男性患者さん。進行がんで発見され、かなり強力な抗がん剤治療が行われていたのだが、結果はPD(進行)だった。そこでTS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシル)と樹状細胞療法に切り替えたところ、急に効果が現れてきた。4~5センチメートルあった腫瘍が小さくなり、PETによる検査では、残っている腫瘍もすでに壊死した組織と診断されている。

胸水もなくなり、多発の小さな肝転移も消えた。

「治療経過として、こういうパターンが多いですね。強い抗がん剤をがんがんやっていたけれど、結果はPDで、もっと軽い治療に変えて、それに樹状細胞療法を加えたら効き出したというパターンです」

[症例1の肺がんで肝転移、骨転移、リンパ節転移に対する効果]

治療前
治療前
治療後
治療後

肺腺がんで肝転移、骨転移、リンパ節転移を起こし、胸水がたまった63歳の男性患者さん。タキソテール、シスプラチン等の強力な化学療法を行ったけれども、効果が現れず進行してしまった。
そこで、抗がん剤をTS-1に切り替え、そこへ樹状細胞療法を追加したところ、途端に効果が現れ肺腫瘍が著明に縮小。残っている腫瘍も壊死状態と診断された。胸水もなくなり、肝転移も消失。ただし、リンパ節転移、骨転移は縮小したが、残っている


特に膵臓がんで好成績が出ている

症例2・乳がん

62歳の女性患者さん。手術後に抗がん剤治療と放射線治療を受けたが、それをやっているときに、肺、肝臓、骨に転移した。より強い抗がん剤治療に切り替えて治療したが、結果はPDだった。

副作用で治療を続けられなくなり、フルツロン(一般名ドキシフルリジン)の単剤投与に切り替えた。これに樹状細胞療法をからめたところ、多発性の肺転移がほとんど消え、残ったものも小さくなった。肝臓、骨の転移もPR(部分寛解)かSD(安定)。腫瘍マーカーの値も下がった。

[症例2の乳がんで肺転移、肝転移、骨転移に対する効果]
図:症例2の乳がんで肺転移、肝転移、骨転移に対する効果

乳がんで肺転移、肝転移、骨転移を起こした62歳の女性患者さん。強い抗がん剤、ホルモン療法を行ったが、効果が出ず進行したので、抗がん剤をフルツロンに変更し、樹状細胞療法を併用した。すると多発肺転移のほとんどが消失、他の腫瘍も縮小か安定し、腫瘍マーカーも低下

症例3・膵臓がん1

65歳の男性患者さん。ステージ4で手術は適応にならない状態だったため、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)とTS-1による治療が行われた。反応はあったものの、PRまでは行かず、SDで少し小さくなった程度。ジェムザールの副作用で薬を減量しなければならなくなり、樹状細胞療法を組み合わせることになった。そのとたんに効き始めてCR(完全寛解)という結果が出ている。原発巣が完全に消え、肝転移も消え、腫瘍マーカーも正常値に下がっている。

[症例3の膵臓がんで肝転移に対する効果]

PET-CT
PET-CT
図:症例3の膵臓がんで肝転移に対する効果
膵臓がんで肝転移を起こした65歳の男性患者さん。手術不能のため、ジェムザールとTS-1併用化学療法を行ったが、あまり反応がなかった。そこで、そこへ樹状細胞療法を追加すると、効果が現れ、原発巣、肝転移巣ともに消失。腫瘍マーカーも正常化した

症例4・膵臓がん2

48歳の男性患者さん。手術ができない状態だったが、重粒子線治療を受け、ジェムザールを併用していた。ところが、腫瘍は17ミリから15ミリに小さくなった程度で、あまり効いていなかった。やはりジェムザールが副作用で使えなくなり、TS-1の単剤に変更。ここで樹状細胞療法をプラスすることになった。とたんに効果が現れ、腫瘍のために起きていた膵管の詰まりがなくなり、残存腫瘍が見えないというところまでよくなった。効果判定はPRだった。

「膵臓がんでは特によい結果が出ています。WT1を使い始めてから膵臓がん8例のうち、CRが2例、PRが5例、SD(安定)が1例となっています。現在までのところ、膵臓がんが最もいい成績ですが、これはジェムザールとTS-1という併用療法が確立していることが関係していそうです」

脳腫瘍や白血病にも使っていくことになる

好成績をあげているWT1などを使った樹状細胞療法だが、特に副作用がないのが特徴だ。局所注入の場合、放射線治療を併用することで、放射線による副作用が出ることはあるが、免疫療法では副作用は現れていないという。患者さんにとっては、負担の少ない治療法と言えるだろう。

現在までの段階では、樹状細胞療法は脳腫瘍や白血病の症例数が多くなかった。しかし、WT1を導入したことで、これからは積極的に治療していくことになりそうだ。

「脳腫瘍も血液がんも、WT1のワクチン療法がすごくよく効いているようです。今までは、局所注入が難しいし、合う人工抗原もなかったので、自己がん組織を使うしかありませんでした。そのため症例数は少なかったのですが、やった場合にはよく効いていたのです。現在はWT1が使えるようになったことで、脳腫瘍と血液がんの患者さんが増え始めています。これからはどんどん治療していくことになるでしょう」

WT1は多くのがんに発現し、汎用性に優れているのが特徴。樹状細胞療法も多くのがん種で行われることになりそうだ。


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